最新のがん統計によると、日本人が一生涯で「がん」と診断される割合は、2人に1人。
一生の内に、人口の半数以上のひとが「がん」に罹患しています。
がんが直接的な原因疾患として死亡に至る割合は、男性で4人に1人、女性では6人に1人。
がん患者数を原発部位で比較した場合、女性では、乳房、大腸、肺、胃、子宮の順位で患者数が多く、大腸、肺、膵臓、乳房、胃の順位で死亡者数が多いとの結果が示されました。
一方、男性では、前立腺、大腸、胃、肺、肝臓の順位で患者数が多く、肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の順位で死亡者数が多いとの結果が示されました。
男女ともに、罹患数および死亡数ともに上位を占める肺がん。
肺は、酸素を鼻口腔から取り込み、全身へ送り、不要な二酸化炭素を体外に排出する機能を担う器官。
肺がんの主なリスクファクターは、呼吸に関わる器官であるが故に、大気と室内空気汚染です。
その中でも、日常生活の中で発生する空気汚染物質として、タバコ、すなわち喫煙は、WHOの国際がん研究機関であるIARC (International Agency for Research on Cancer)による「発がん性に関する国際的評価」で、ヒトに対する発がん性を有し、肺がん発症との因果関係は確実であるという最上位のリスク判定が下されています。
一方で、世界的に見ても、喫煙率が低い日本人女性に於いて、なぜ、死亡に至る部位として「肺」が第2位と上位にランクインしているのでしょうか?
その要因について見ていきたいと思います。
目次
1. 日本人の喫煙率と受動喫煙
2. タバコ煙とタバコ臭に含まれる化学成分
3. 女性と受動喫煙のリスク
3.1 女性の健康と受動喫煙
3.2 女性の肺がん
4. こどもと受動喫煙のリスク
5. まとめ
1. 日本人の喫煙率と受動喫煙
2019年に実施された最新の調査によると、男性の喫煙率は27.1%、女性では7.6%、日本人全体としての喫煙率は16.7%であることが明らかにされました。
なお、「以前は吸っていたが1か月以上吸っていない」に該当する男性13.1%、女性3.2%は、非喫煙者として分類・加算されているため、喫煙率の実数は微増する可能性が示唆されます。
タバコは、喫煙者本人の健康を障害するだけでは無く、タバコ葉そのものに含まれる成分、および、燃焼時に発生する煙や臭気に含まれる成分によって、タバコを吸わない人にも健康リスクを与える事実も問題視されています。
この問題事象を受動喫煙(セカンドハンド・スモーキングおよびサードハンド・スモーキング)と呼びます。
実際に、IARCの「発がん性に関する国際的評価」では、受動喫煙も能動喫煙と同様に、肺がん発症との因果関係は確実と判定。
「肺がんで亡くなられた」と耳にした時、「タバコを吸っていたのかしら…」との思いが巡るかもしれませんが、実際には、家族やパートナー、職場、飲食店などで定期的にタバコ煙や臭気に晒されることで、喫煙経験が無い方でも、肺がんに罹患し、お亡くなりになることもあるのが現実です。
タバコだけが肺がんのリスクファクターではありませんが、その大きな要因であることに変わりはありません。
2. タバコ煙とタバコ臭に含まれる化学成分
タバコ煙には、5,300種類以上の化学物質が含まれ、そのうち70種類以上はIARCで同定されている発がん性物質。200種類もの有害物質を含むとも言われています。
一例を取り上げただけでも、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、スチレンといったシックハウス症候群関連物質としても悪名高い物質が列挙。
これらに、ニコチン吸収を高めるために添加されたアンモニアも加わり、「タバコ臭」として悪臭が空間を漂い、不快感やストレス、時に、頭痛やめまい耳鼻咽喉器官への刺激症状を非喫煙者に対して齎す原因物質ともなっています。
3. 女性と受動喫煙のリスク
3.1 女性の健康と受動喫煙
能動喫煙で発症する疾患は、受動喫煙でも同様に発症する可能性が高いことが指摘されています。
月経困難症を始めとした月経周期に纏わる症候群や不妊も含む妊娠・周産期に関連する疾患。子宮頸がんや乳がんなど女性特有の悪性腫瘍。女性ホルモンの分泌量変化に伴う更年期障害などの症候群。
タバコに含まれる成分は、これら女性に特有の疾患の他、血糖値や脂質代謝にも影響を与えるため、糖尿病、脂質代謝異常など生活習慣病の発症や悪化を招く一因にもなります。
3.2 女性の肺がん
一般的には、「肺がん」と一括りに呼ばれていますが、病理的詳細に見た場合、肺がんの組織型に違いがあり、主に、扁平上皮癌は能動喫煙、腺癌は受動喫煙との因果関係が複数の研究調査から明らかにされ、男性の肺がんでは扁平上皮癌が多く、女性の肺がんでは腺癌が多いことが長らく指摘されてきました。
非喫煙で肺がんを患う女性の8割が腺癌である事実から、国立がん研究センターの研究班は、「非喫煙肺がん患者と受動喫煙の関連性」の究明を命題とし取り組まれた研究調査の中で、受動喫煙環境にある女性では、受動喫煙環境にない対象群と比較して、約2倍の割合で肺腺癌に罹患している事実を明らかにしました。
具体的な事例として、喫煙者である配偶者を持つ女性患者さんのケースでは、夫の喫煙本数と喫煙年数の上昇に伴い肺腺癌発症率も上昇するとの結果が示されました。
今春、国立がん研究センターと東京医科歯科大学の共同研究成果として発表された中でも、「受動喫煙は能動喫煙とは異なるタイプの変異を誘発すること、その変異は、初期の腫瘍細胞の悪性化を促すことで発がんに寄与すること」が明らかとされました。
4. こどもと受動喫煙のリスク
乳幼児と小児で最も多い疾患として取り沙汰されている中耳炎、気管支喘息、気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症は、受動喫煙により罹患率が高まると言われています。
また、乳幼児によるタバコ誤飲は誤飲事故の中でも高い割合で発生。タバコ1本または1/2本の量で致死量に達するなど、その中毒性が懸念されます。
5. まとめ
喫煙に関しては、残念ながら、ご本人にとっても、周囲の方にとっても、ポジティブな見解を見出すことは皆無であると言えます。
時折、「個人の自由」や「追いやるようで可哀そう」と喫煙習慣をお持ちの方へ同情するご意見も伺うことがありますが、このような意見を発する際、喫煙者、非喫煙者双方の間に「愛」はあるのでしょうか?
能動喫煙と受動喫煙のリスクを知っていても、温情からタバコを止めるように促せない犠牲を伴う愛を注ぐパートナーの存在を前に、喫煙習慣をお持ちの方は、もう一度、「タバコは本当に必要か?」「なぜ必要か?」「健康を害さない代替策はないか?」を考えて見られると良いと思います。
喫煙習慣をお持ちではない方は、「タバコが心身の現在と未来に与える影響」「卒煙を手助けできる方策はないか?」を考えて見られることをお勧めします。
がんを筆頭に、すべての疾患に於いて、予防が可能な最大のリスクファクターであると言われるタバコ。
5月31日は世界禁煙デー。5月31日から1週間は禁煙週間です。タバコを吸う人も吸わない人も喫煙習慣に関して再考なさる良い機会になりますように。
【参考文献/URL】
「禁煙学 改訂3版」
日本禁煙学会 編
南山堂
国立研究開発法人国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/index.html
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