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【家族・こども・私】発達障害は、なぜ増加しているの?

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【家族・こども・私】発達障害は、なぜ増加しているの?

近年、ADHDや自閉症に代表される発達障害児が急増している背景として、遺伝要因より環境要因が主な原因であることが確定的であるとの研究発表が重ねられてきました。

現在に至るまで、妊娠・周産期や胎児・乳幼児期における化学合成物質等の曝露と発達障害の発症に関わる知見が蓄積され、その因果関係は、徐々に判明されるに至っています。

最新の知見も交えながら、予防が可能である環境要因への曝露を可能な限り軽減することを目的として、環境要因を中心に「発達障害」に関する世界情勢を見ていきたいと思います。

目次


1. 発達障害とは?
1.1 ADHDとは?
1.2 現状と割合
1.3 自閉症(ASD)とは?
1.4 現状と割合
2. 増加している理由は?
2.1 日本だけではない、米国・韓国でも急増?
2.2 これらの国で増えている理由は?
3. 発達障害と環境要因
3.1 問題となっている農薬とは?
3.2 農薬以外の環境要因は?
4. 発達段階にある子どもの身体
4.1 妊婦と胎児の関係
4.2 有害物質と子どもの脳
5. まとめ

 
 
1. 発達障害とは?

1.1 ADHDとは?
注意欠陥・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder ; ADHD)は、自閉症スペクトラム症(autism spectrum disorder ; ASD)などと共に神経発達症に含まれている疾病概念。

よく耳にする「発達障害」とは、生来的な脳機能障害を背景に持つ疾患の総称であり、ADHDとASDも含まれています。

ADHDは「不注意・多動性・衝動性」の3つの主症状が特徴的な疾患。

疾患に対する無理解から、社会生活に於いて「集中力に欠け、落ち着きがなく、不注意な子」として認識され、ご家庭での「躾の問題」として偏見的に捉えられることも少なからずあるのではないでしょうか。
 
1.2 現状と割合
女児よりも男児に4~5倍多く発現する疾患。小学生の3~9%にADHDが見られると言われています。

成人に於ける有病率は3~4%で統合失調症の1%より遥かに高値です。
 
1.3 自閉症(ASD)とは?
1981年に英国の自閉症研究者ウィングによって発表された自閉症スペクトラム症(ASD)3大特徴とは、

1. 「社会生活上の暗黙のルールが理解できない」社会性の障碍

2. 「字面通りにしか理解できない」コミュニケーションの障碍

3. 「おおよその見立てができない」想像力の障碍とそれにもとづく行動の障碍

社会生活に於いて、他者との関係構築に困難を来す場面に度々遭遇し「わがまま、頑固、反抗的」と捉えられることも少なからずあるのではないでしょうか。
 
1.4 現状と割合
1990年頃、ASD子どもの有病率は0.1~0.2%であったのに対し、2021年時点では1.47%、68人に1人に増加。

2020年に日本で行われた調査では、5歳児に於けるASDの有病率は1.73%の割合に見られ、そのうち約半数に上る50.6%にADHDの併存が認められたと報告されています。
 

2. 増加している理由は?

2.1 日本だけではない、米国・韓国でも急増?
ADHDやASDなどの発達障害は、日本だけではなく、米国と韓国でも顕著に急増しているとの報告が、2014年に開催された環境医学系学術集会で研究成果の1つとして発表されています。

米国カルフォルニア州では、2003年に創設された「自閉症(ASD)およびADHD発症と遺伝・環境双方の影響要因を調査するCHARGE(Childhood Autism Risks from Genetics and the Environment)研究」が経年的に実施されており、昨年2024年にも、自閉症発症と環境要因の因果関係が強く示唆されるとの報告を発表しています。
 
2.2 これらの国で増えている理由は?
世界的に見てもADHDやASDに代表される発達障害は増加傾向であり、これらの3国に限ったことではありません。

欧州でも同様に増加傾向が見られる一方で、日本、米国、韓国で突出して急増している要因とは何でしょうか。

要因の1つとして取り沙汰されているのが、3国に共通して見られる「農地面積当たりの農薬使用量の顕著な多さ」と「欧州諸国では既に規制対象となっている農薬を使用」している点です。
 

3. 発達障害と環境要因

3.1 問題となっている農薬とは?
脳高次機能発達に関する神経回路異常を齎すと考えられ規制の対象となっている農薬とは、ネオニコチノイド系農薬に代表されるアセチルコリン系情報伝達を攪乱させる化学物質から合成されているもの。

脳内の情報は、アセチルコリン受容体にアセチルコリンが結合されることで伝達される仕組みを有しています。

一方で、ネオニコチノイド系農薬は、アセチルコリン受容体に類似したニコチン性受容体を標的とするニコチン類似物質であるため、脳内の情報伝達網に支障を来すことが分かっています。

現在日本で使用が認められているネオニコチノイド系農薬は第二世代まで含めると11種に及び、果物・野菜お茶など多くの農作物に使用されています。

他方、EU欧州連合では、農薬として登録が認められているのは、第二世代まで含めても3種に限定されています。

農薬が身体に及ぼす影響を研究している第一人者からは、ネオニコチノイド系農薬は、腸内細菌叢にも変化を齎し、アレルギー疾患や肥満症の一因にもなっているとも指摘されています。
 
3.2 農薬以外の環境要因は?
米国カリフォルニア州に於けるCHARGE研究の結果、ADHD発症要因との明確な因果関係として、また、ADS発症との関連因子として、プラスチックの柔軟性を高め、加工を容易にするために用いられるフタル酸エステル類、その中でもとりわけ、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル;DEHP)への高い曝露が危険因子となることが示されています。

日本では、2002年に、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル;DEHP)を含有するポリ塩化ビニルについて、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)としての可能性が指摘され、油脂または脂肪性食品を含有する食品への使用が規制されましたが、2020年時点で「接触部分に使用してはならない」との条件付き使用禁止に移行されています。

その他の環境要因としては、日常生活で遭遇し易い、排気ガスによる大気汚染、妊娠・周産期・授乳期に於ける喫煙および受動喫煙アルコール摂取なども挙げられています。
 

4. 発達段階にある子どもの身体

4.1 妊婦と胎児の関係
胎児期には、母体と胎児間の栄養や酸素のやり取りは胎盤を介して行われますが、この胎盤通過性によって、時に、有害となり得る薬剤や物質も胎児に取り込まれ、発達や身体に悪影響を及ぼす機会にもなり得るのです。
 
4.2 有害物質と子どもの脳
胎児および乳幼児の身体は、成熟した大人と比べると、有害物質を排除する機能が未熟である発達途中の段階。

成人の脳では、神経細胞に必要な栄養を取り込み、有害物質の通過をブロックする血液脳関門(Blood-Brain-Barrier)、通称BBBが存在し機能していますが、胎児・乳幼児期では未発達な段階であり、有害物質も容易に取り込んでしまいます。

胎児期および乳児期は、有害物質が容易に体内に取り込まれ、かつ、神経回路が急速に形成される大切な時期。

化学合成物質を中心とした環境因子は、発達障害発症の引き金となり得ることも考え合わせ対応することが、子どもたちの未来、そして、環境保全にも重要であるようです。
 

5. まとめ
発達障害の症状を有し、社会的生活に困難さを覚えているご本人、ご家族、ご友人、地域の方々に対し、必要に応じて手を差し伸べることは勿論大切なことであって、“当然のこと”として受け止められることが、みんなと地域にとって幸せをもたらし、豊かな社会になることは確かです。

一方で、予防可能な方策の一環として、蓄積されてきた知見も手掛かりに、農作物の見栄えと価格だけに目を止めることなく、農作物などの生育環境にも心を配り、リスクを分散しながら頂くことが、より良い未来の選択となるとなるのではないでしょうか。

【参考図書・サイトURL】
「子どもの精神医学ハンドブック」[第3版] 
2021年3月31日 第3版第1刷発行

「講座 精神疾患の臨床9 神経発達症群」 
2024年5月30日 初版第1刷発行

「臨床環境医学(第23巻第1号):第22回日本臨床環境医学会学術集会特集:総説シンポジウム
自閉症・ADHDなど発達障害の原因としての環境化学物質―遺伝と環境の相互作用と農薬などの曝露による脳神経系、免疫系の撹乱」
 木村-黒田純子、黒田洋一郎

「Early childhood exposure to environmental phenols and parabens, phthalates, organophosphate pesticides, and trace elements in association with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) symptoms in the CHARGE study」
Oh et al. Environmental Health https://doi.org/10.1186/s12940-024-01065-3

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