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食べて病気になる時代?トランス脂肪酸が世界中で規制される理由

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食べて病気になる時代?トランス脂肪酸が世界中で規制される理由

マーガリン・菓子/惣菜パン・シリアル・スナック菓子・ファーストフード・インスタント食品・冷凍食品には往々にして含まれており、近年、健康に悪影響であるとして避けられる傾向となったトランス脂肪酸。

トランス脂肪酸の正体とは一体何なのでしょうか。なぜ健康に悪影響を与えると言われているのでしょうか。

トランス脂肪酸の概要と世界各国で施行されているトランス脂肪酸に対する規制を俯瞰しながら、私たちが日頃から注意すべき点について考えてみましょう。
 

目次


1. トランス脂肪酸とは?
1.1 トランス脂肪酸の化学構造
1.2 多く含まれる食品
2. トランス脂肪酸と疾病
2.1 因果関係が明らかな疾患
2.2 疾病を誘発する理由
3. WHOが推進するREPLACE
3.1 6つの推進アクション
3.2 WHOが推奨する評価値
3.3トランス脂肪酸摂取量国際比較
4. 政策のパイオニアEU
4.1 優等生デンマークの規制
4.2 EUが推進する規制
5. まとめ

 
 
1. トランス脂肪酸とは?
トランス脂肪酸とは、不飽和脂肪酸に属し、牛などの反芻動物から抽出される油脂やそれらの動物の胃内微生物の介在により元来存在する天然由来のものと、食品を加工するプロセスに於いて、植物油や魚油に水素添加を行い固形化する際に発生する工業生産由来のものに大きく2分類されます。

その特質を知る手がかりとして、トランス脂肪酸の化学構造を見ていきましょう。
 
1.1 トランス脂肪酸の化学構造
油・脂(あぶら)はその性状により、ゴマ油など液状のものを油、ラードなど固形のものを脂と分類され、双方を総称して油脂(ゆし)と表現します。油脂はグリセリンと脂肪酸の分子から構成されています。

脂肪酸は3つの原子、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)で構成され、炭素と炭素の間に二重結合が存在するか否かといった構造の違いにより、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類されます。

炭素同士の二重結合を有する不飽和脂肪酸は、炭素間の二重結合を境目として、同側に水素が結合するシス型と、反対側に水素が結合するトランス型という異なった構造体を有しています。

液体の油を固形化する際、水素を部分的に添加する技術が用いられますが、水素を添加することで不飽和脂肪酸の二重結合が減り、飽和脂肪酸の割合が増え、結果として、トランス脂肪酸が発生します。

また、加工食品として用いる際に、植物油や魚油の消臭効果を得るために高温加熱処理を加えることで、シス型からトランス型の脂肪酸へ転換されることも判明しています。
 
1.2 多く含まれる食品
米国のMoyo Clinicでは、トランス脂肪酸が含まれる代表的な超加工食品として、冷凍ピザ、電子レンジ用ポップコーン、市販のパッケージされたケーキ・クッキー・パイ、ショートニング、ビスケットやロールパン生地などの冷蔵加工食品、フライドポテト・フライドチキン・ドーナッツなどの揚げ物、コーヒーフレッシュ、マーガリン・スプレッドを挙げています。

米国系大型ディスカウントストアで目にするような商品が目白押しですね。
 

2. トランス脂肪酸と疾病構造
WHOは、工業的に生産された超加工食品などに含まれるトランス脂肪酸を摂取したことによって、世界中で年間 278,000人もの命が奪われているとして、各国政府にトランス脂肪酸に関する規制と市民への啓発を推進するよう警鐘を鳴らしています。

実際に、トランス脂肪酸が含まれる超加工食品の摂取を続けることで、どのような病気に罹患しやすくなるのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
 
2.1 因果関係が明らかな疾患
トランス脂肪酸により惹起される疾病として関連性が明らかであると発表されているのは、心臓の冠動脈などに発生する血管の動脈硬化を主背景とした、冠動脈疾患(心臓病)。代表的な疾患として、心筋梗塞や狭心症が挙げられます。

また、冠動脈疾患発症の温床ともなる肥満症の原因にもなることは明らかとなっています。さらに、糖尿病発症の要因でもあるインスリン抵抗性との関係性も示唆されています。

飲酒歴との因果関係の有無によらず発症する脂肪肝のMASLD(NALFD)や慢性腎臓病(CKD)、がんなど、炎症反応を伴う疾患を惹起するリスクファクターとしても、トランス脂肪酸に関する科学的検証が進められています。
 
2.2 疾病を誘発する理由
なぜ、トランス脂肪酸は前述のような疾患を発症する原因となってしまうのでしょうか。

現時点で明らかなことは、トランス脂肪酸が介在することで、LDL(悪玉)コレステロールが増加し、HDL(善玉)コレステロールが減少することで、動脈硬化が発生し、生活習慣病などでお馴染みとなった動脈硬化性疾患の発症を惹起させると言うこと。

水素添加のプロセスで飽和脂肪酸が増加することも一因となっているのではないでしょうか。
 

3. WHOが推進するREPLACE
前章でお示ししたように、WHOは、トランス脂肪酸を摂取し続けることで被ることが懸念される健康リスクを減少させるために、各国政府に対し、6つの推奨アクションREview, Promote, Legislate, Assess, Create, Enforceの頭文字を付したREPLACEを2018年より推進しています。REPLACEが推奨するアクションとは?
 
3.1 6つの推進アクション
REview
工業的トランス脂肪酸の発生機序を解明し、必要に応じて、規制を検討する。

Promote
工業的トランス脂肪酸をより健康的な油脂に転換するよう推進する。

Legislate
工業的トランス脂肪酸を削減するための規制など政策決定を行う。

Assess
食品産業界から排出されるトランス脂肪酸のモニタリング調査および査定と消費者運動の機運を高める。

Create
工業的トランス脂肪酸が健康に及ぼす悪影響に関する啓発活動の場と機会を創出する。

Enforce
工業的トランス脂肪酸削減政策と規制に対するコンプライアンスを強化させる。
 
3.2 WHOが推奨する評価値
WHOは、成人に於けるトランス脂肪酸含有量の目安として、2,000 kcal/日の食事中では2.2g未満、摂取エネルギー全体の1%未満を目標値として掲げています。
 
3.3 トランス脂肪酸摂取量国際比較
著名な医学雑誌the bmjが2010年に発表した情報によると、世界のトランス脂肪酸摂取割合は平均1.40%(0.6%-2.9%)であり、最高摂取値を示した国はエジプト。次いで、パキスタン、カナダ、メキシコ、バーレーンが続く結果に。

日本は、2007年の時点でトランス脂肪酸摂取1日平均量は0.96g、摂取エネルギー全体に占める割合は0.47%と平均を下回る結果を得ています。
 

4. 政策のパイオニアEU
欧州グリーンディールなど、世界に先駆けて、健康や環境などに関する課題に対し、実態調査の上、明確な目的と目標値を掲げ規制を制定し、常に議論と改善、多国間およびステークホルダーとの折衝を重ねるEU欧州連合。

油脂分を多く含む食文化背景を有する国々が多数存在することも背景に、トランス脂肪酸の規制に関しても、アメリカ大陸同様に、WHOが推奨するREPLACEに準拠する規制を積極的に推進しており、積極的な政策展開を行ったデンマーク、米国、アルゼンチンなどの国々では大きな改善が認められる結果に。

その中でも、世界に影響を与えたデンマークの取り組みを見てみましょう。
 
4.1 優等生デンマークの規制
EUの中でもデンマークは、2003年にトランス脂肪酸に対する規制を制定した最初の国であり、パイオニア中のパイオニア。

デンマーク王国が世界に先駆けて規制を制定するに至った背景には、1993年、著名な医学雑誌The Lancetに掲載された「米国に於けるトランス脂肪酸消費量と心疾患発症リスク増加の因果関係」と題された論文を基に、デンマーク王国栄養審議委員会が同国でモニタリングを開始したことが挙げられます。

2003年の規制開始時に、100gの油脂中に占めるトランス脂肪酸の含有量上限を2gと制定しました。
 
4.2 EUが推進する規制
欧州加盟国全体としても、デンマーク王国が示した基準値に準じて、天然由来以外の工業的生産物であるトランス脂肪酸が食品に含まれる上限値を100gの油脂に対し、2g未満に設定。

また、上記の上限値を超過する場合は、取引業者間で情報提供が行われることを努力義務と定めています。

当規制は、2006年に発布され、2019年に改正の上引き継がれ、2021年から施行されています。
 

5. まとめ
日本国政府は、多くの日本人は元来、主に超加工食品に含まれるトランス脂肪酸を摂取する機会も量も少ないとして、欧米諸国等の諸外国と比較し、特段、トランス脂肪酸を低減する働きかけを食品産業界に行うなどの政策的な働きかけ、および、啓発運動を活発に行っているとは言い難い状況であり、物見の櫓から市場の意識・良心に一任しているご様子です。

一方で、街中には、ファーストフードチェーン店、ファミリーレストラン、コンビニエンスストアなど、提供される食事や陳列棚には超加工食品が溢れ、手に取りやすい環境下にある現実。

子どもたちの目には魅惑的に映り、手に取りやすいキャラクターがプリントされた超加工食品に囲まれています。

かつての「健康的な」日本の生活環境とは異なりつつあり、その事実は、子どもたちの肥満が増えている現状にも反映されています。

食への意識は、私たち自身の健康にとっても重要ですが、家族、特に、判断力にサポートを要する未成年者には大人の介在が欠かせません。

また、「ビッグでワイルド」な文化へ傾倒しがちなパートナーと暮らしを共にする方は、ひと手間増えますが、パートナーのヘルスチェックも大切な役割の1つです。

「手軽さ」「安さ」「面白さ」だけに傾倒しすぎることなく、食育の視点も持って、食塩量は調整しつつ、古き良き日本の食文化も大切に守り、育み、次世代に伝えていきたいものです。
 
【参考URL・資料】
農林水産省
トランス脂肪酸に関する情報
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/index.html

WHO
Trans fat
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/trans-fat

European Commission
Trans fat in food
https://food.ec.europa.eu/food-safety/labelling-and-nutrition/trans-fat-food_en

CDC
「Global Surveillance of trans-Fatty Acids」
PUBLIC HEALTH PRACTICE BRIEF — Volume 16 — October 31, 2019
https://www.cdc.gov/pcd/issues/2019/19_0121.htm

「The Effect of Trans Fatty Acids on Human Health: Regulation and Consumption Patterns」
Foods. 2021 Oct 14;10(10):2452. doi: 10.3390/foods10102452
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8535577/

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