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男性が感染源?妊婦と胎児の健康に関わる風疹の感染リスクとCRS

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男性が感染源?妊婦と胎児の健康に関わる風疹の感染リスクとCRS

昨年2024年度までに、ご家庭やご勤務先で、定年退職に近い概ね60歳から、働き盛りの概ね45歳の男性宛に風疹予防を目的とした無料ワクチン接種のご案内が届いていた経緯をご存じでしょうか。

風しんの追加的対策」と銘打たれた、予防接種事業は、過去に公的に風疹の予防接種を受ける機会がなく、抗体保有率が低いと予測される昭和37(1962)年4月2日から昭和54(1979)年4月1日生まれの男性に対し、特に、妊娠期にある女性への感染源となることを回避すべく設けられた追加対策であり、2019年から2024年に公費扱いで実施されました。

高い感染力を有する一方で、予防が可能な風疹ウィルスに対して、WHOを筆頭に、風疹根絶を目標として世界的な戦略が打ち立てられています。

他地域と比較しても風疹発症率が高いアジア・アフリカ地域に於いて、先日、ネパールは風疹排除国として宣言し、WHOから認定を受けました。

2030年までに世界的根絶を目指す風疹に関して、疾患に対する基礎知識と日本及び世界の発症動向について見ていきましょう。

目次


1. 風疹の基礎知識
1.1 風疹とは
1.2 発症動向
1.2.1 日本
1.2.2 世界
2. CRSの基礎知識
2.1 CRSとは
2.2 発生動向
2.2.1 日本
2.2.2 世界
3. 風疹と予防接種
3.1 MR・風疹ワクチン
3.2 抗体検査
4. 風疹根絶と世界的戦略
4.1 風疹排除宣言国
4.2 風疹根絶2030戦略
5. まとめ

 
1. 風疹の基礎知識

風疹に罹患した場合、どのような症状を呈し、どのような経過を辿るのでしょうか。病気の概要と日本と世界に於ける発症動向について見ていきましょう。
 
1.1 風疹とは
風疹とは、病原体である風疹ウィルスが体内に取り込まれることで発症する疾患です。

主な感染経路は、感染した人のくしゃみや咳を介して発症する飛沫感染

その他にも、飛沫が付着した物体に触れることで外部からの主要侵入ルートとなる口腔から体内へ到達し、発症に至る接触感染、風疹ウィルスに感染した妊婦の胎盤を介して発症する母児(垂直)感染があり、以上3つの感染経路を介して、風疹ウィルスが体内に侵入し、感染が成立。

感染成立後、約5から7日間でウィルスは全身に拡散され、2から3週間の潜伏期間を経て、発熱・発疹・リンパ節腫脹(主に頭頸部)を3主徴とし発症します。

一方、風疹ウィルスに感染したひとが全員発症するのではなく、発症に至らない不顕性感染の割合は小児で半数程度、成人でも15%程度存在し、また、3主徴に関しても、全て症状を呈するケースも多く見られます。
 
1.2 発生動向
近年、日本に於いては、2012年から2013年ならびに2018年から2019年の2回に亘って風疹の流行が認められました。その後も減少傾向である一方で、引き続き、発症例は散見されています。

小児の発症例では、50から80%の割合で発症後半期に顔面から頸部にかけ発疹が認められ、成人女性に於ける発症例では、3主徴の他に、感染後3日から10日後に関節炎や関節痛の症状も多く認められます。

また、妊娠期の女性が風疹ウィルスに感染することで、胎児の先天性風疹症候群への罹患や、流産・死産を誘発することも懸念されています。

風疹発症報告は未だに各国で後を絶たない中、WHOを中心に、風疹根絶を目標とした予防活動が世界各国で繰り広げられています。

「風疹対策」の結果として「発症動向」を切り口とし、日本と世界の現状を確認しましょう。
 
1.2.1 日本
風疹は、その感染力の高さから、感染症法に基づく5類感染症に分類される全数把握疾患であり、診断した医師は速やかに保健所への報告する義務が課されています。

また、学校保健安全法では、第2種に分類されており、発疹の消失が認められるまで出席停止の措置が取られています。

2012-2013及び2018-2019の流行年度の発症件数は、各年度2,000症例を超過した一方で、直近の2021年から2023年では、年間発症数は15例以下と著しい減少傾向。

流行年に於いて、風疹発症例の届出によると、患者の多くは40代を中心とする男性であったという事実から、ワクチン接種による風疹予防効果は逆説的に実証されたと言えるのではないでしょうか。
 
1.2.2 世界
世界中で風疹ウィルスに対する予防接種が進められている一方で、2022年時点に於いても、風疹の発生件数は、世界78か国で17,865件の症例が発生したと推計されています。

症例発生が多く認められた地域は主にアフリカとアジアであり、これらの地域では予防接種率も低いという相関関係が見られます。
 

2. CRSの基礎知識

全世界で年間約100,000件の発症例が認められる先天性風疹症候群、Congenital Rubella Syndrome (CRS)。他方、日本に於いては、2021年以降、発生動向調査の届出は受理されていません。

一方で、風疹は少なからず発生している以上、今後の発生確率はゼロとも言い切れません。

CRSはどのようなルートで感染が確立し、どのような症状を呈するのでしょうか。

日本と世界の発生動向を確認しながら、CRSの概要について見ていきましょう。
 
2.1 CRSとは
Congenital Rubella Syndrome、略してCRSと英語圏で呼ばれている先天性風疹症候群。

風疹ウィルスに対して免疫機能が十分に発揮されない、いわゆる、抗体価が低い女性が妊娠、かつ、妊娠初期の3か月までに風疹ウィルスに感染し、胎盤を介して胎児へも大量のウィルスが移行した場合、CRS発症の基盤が成立します。

CRSの主な症状は、先天性心疾患・難聴・白内障の3主徴ですが、難聴は妊娠初期以降の感染でも発症が確認されており、難聴の症状も高度であるケースも見られています。

また、上記3主徴以外にも、糖尿病や発達遅延、網膜症、血小板減少症と、出現する症状は多岐に亘っています。
 
2.2 発生動向
風疹ワクチン接種は世界中で実施されており、世界の97%をカバーするなど、予防接種の推進強化に伴い、世界的に発生は減少傾向であるものの根絶には未だ至っていないCRS。

感染力と播種力の強さを特徴とする風疹ウィルスは、一度感染が確立した場合、感染者を軸として、急速に拡散される可能性を秘めています。

日本と世界の発生動向を検討しながら、私たち一人一人が取り組むことが可能な予防策についても検討してみましょう。
 
2.2.1 日本
2012年から2014年の風疹が流行した年には、CRSの症例件数も45件届出があり、2019年から2021年時点でも6件の届出が受理されています。

一方で、2021年第3週以降、CRSの発症例は認められていない日本。過去5年間に及ぶ風疹の大幅な発生件数の減少との因果関係がCRSの発症件数にも反映されています。
 
2.2.2 世界
2025年時点に於いても、CRSの年間発症件数は、全世界で100,000件以上が確認されています。

その要因として、世界中で風疹ワクチン接種が拡充している一方で、アフリカを中心に、世界19か国に於いて、予防接種が実施されていない国々が存在しており、風疹蔓延地域への旅行、未接種者間での感染や、抗体価が低く不十分、あるいは、不顕性感染者の発症など様々な要因が考えられます。
 

3. 風疹と予防接種
風疹を予防するためには、風疹単独のワクチンと麻疹と風疹の2疾患予防への適用があるMRワクチンの2種類の内、何れかを用いることが可能です。

MRワクチン、風疹ワクチンの概要と、予防効果を発揮する十分な抗体量が接種されているか否かを調べる抗体検査について見ていきましょう。
 
3.1 MR・風疹ワクチン
風疹発症予防を目的とした場合、通常、感染力の強い麻疹と風疹双方の発症抑制に効果を発揮するMRワクチン(2種混合ワクチン)の接種が有効です。

MRワクチンは定期接種であり、体内で十分な抗体量を獲得するために2回に亘る接種が必要です。

通常の接種期間は、1回目が1歳の誕生日から2歳を迎える前日までの1年間。2回目は小学校入学前の5歳以上7歳未満のタイミングです。

また、MRワクチンは、ウィルスを弱毒化して製造された生ワクチンであるため、胎児がウィルスに感染しないことを完全に否定することは出来ません。

よって、妊娠が判明している際には接種は不可であると共に、ワクチン接種後2か月間は妊娠を回避するための対策が必要です。

一方で、接種後に妊娠が判明した事例に於いては、胎児への感染は確実では無いため、堕胎の理由とはなりません。

副症状として多く見られるのは、他のワクチン接種時と同様に、発熱、発疹、鼻汁、咳嗽、注射部位の紅斑や腫脹などです。
 
3.2 抗体検査
妊娠を希望する女性及びパートナー、同居中のご家族は、MRワクチン接種の有無と問わず、風疹ウィルス抗体検査を受け、十分な抗体量を有しているかを確認することが推奨されます。

また、過去の風疹及びCRS発症例では、感染場所の大多数は職場であった事実から、特に、「風しんの追加的対策」の対象となっていた男性の抗体検査受検及び必要に応じてワクチン接種も推奨されるところです。

更には、風疹に対する予防接種が未実施である国々への出張などに際しても、抗体検査受験の上ワクチンを接種することが望ましいのです。

本来的には、不顕性感染も含め、どこで風疹に感染するかを計り知ることは不可能であり、自然抗体を有する方以外の全てのひとが、節目の年に於いて抗体検査を実施し、必要に応じて風疹ワクチンを接種することが理にかなっているのではないかと思います。
 

4. 風疹根絶と世界的戦略
WHOの各地域では、非常に強い感染力を有する麻疹と風疹の根絶を目指して、排除目標が掲げられ、予防接種の推進と発生動向調査が行わています。

WHOによって排除宣言が認められるためには、国内のみならず、仮に海外から持ち込まれた場合でも感染流行が生じないように、抗体検査と予防接種が励行される必要があります。

現時点で風疹排除宣言がなされ、認定を受けた国々及び地域を確認してみましょう。
 
4.1 風疹排除宣言国
2023年8月時点で、WHO加盟国の64%に該当する国々で風疹排除宣言が行われ、認定されています。

WHO加盟国は、アフリカ・アメリカ・ヨーロッパ・東地中海・南東アジア・西太平洋の6つの地域事務局に区分されており、日本はフィリピン・マニラに本拠地を有する西太平洋事務局の管轄国。

以下の通り、風疹排除宣言認定地域及び国々を一部ご紹介します。

2015年にアメリカ地域の風疹排除宣言が認定。

風疹発生が多く見られるアジア地域でも、南東アジア地域では、ブータン、北朝鮮、モルディブ、東ティモール、スリランカ、そして、つい先日、ネパールも認定され、合計6か国が風疹排除を達成。

西太平洋地域では、韓国・オーストラリア・ニュージーランド・マカオ・ブルネイ王国では2017年以降2023年9月時点までに風疹発生は確認されておらず、2021年5月香港、2022年9月シンガポールに於いては風疹排除を達成しました。

残念ながら、日本は2025年時点で未認定国です。
 
4.2 風疹根絶2030戦略
WHOは、6つの地域事務所に対し、全ての地域に於いて、2030年までに麻疹及び風疹を排除すべく、「麻疹及び風疹の戦略的フレームワーク2021-2030」と題したガイドラインを公開しています。

各地域事務所は、当該フレームワークに則り、各国に対し、啓発・予防接種・発生動向調査の実施を要請。定期的に報告会が行われ、進捗状況が取りまとめられています。

日本も世界の潮流に乗り遅れることなく、皆一丸となった取り組みによって、麻疹・風疹排除を高らかに宣言できる日の到来が待ち遠しい思いです。
 

5. まとめ
感染症は、罹患した自分自身が辛い症状に悩まされるだけではなく、周囲の方への感染源となり、殊に、妊娠期にある女性や、免疫機構が未発達、または、低下している子ども達や高齢者へ多大なネガティブインパクトを与えかねないと言う怖さがあります。

また、胎児への感染によって、生涯に亘る健康障害リスクを負わせてしまうことも否定できません。

一方で、ワクチン接種によって、思わぬ副症状が発生するなど、接種する上でもリスクが皆無であるとは言えない現実もあります。

創薬の研究者、実施する医療者、販売する製薬会社、伝達するメディア関係者、被接種者、各人が一定の共通知識を持ち、世界の動向も考慮しながら、情報共有に際する透明性が担保されている中で、接種が推進されることが望ましいのではないでしょうか。

闇雲にワクチン接種を怖がらず、拒まず、専門家の意見に耳を傾け、専門家の説明を鵜呑みにせず、必要に応じて情報を精査し対応していく、お一人お一人の情報に対するスタンスも大切です。
 
【参考URL】
WHO
https://www.who.int/

Measles & Rubella Partnership
https://measlesrubellapartnership.org/

厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/

国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
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