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【家族・こども・私】プラスチックがもたらす健康リスクと環境汚染

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【家族・こども・私】プラスチックがもたらす健康リスクと環境汚染

本日6月5日は、国連で定められた「世界環境の日:World Environment Day」。

1973年以降、毎年6月5日は「世界環境の日」を記念し、年次の主要テーマを元に、環境に関するイベントが世界各地で大規模に繰り広げられています。

2025年のテーマは「プラスチック汚染」

プラスチックを使用していない商品を数えたほうが早いくらい、私たちはプラスチックに取り囲まれた生活圏内で暮らしています。

耐久性があり軽量で持ち運びにも便利。水濡れも防止し再利用も可能。使用毎に廃棄することで衛生的。廉価で導入しやすく安価で入手しやすい価格で誰に対しても優れたコストパフォーマンスを発揮。

プラスチックは、私たちの生活に利便性と経済性という恩恵をもたらし、今や、無くてはならない存在となりました。

一方で、プラスチック使用に伴う環境汚染や生態系に及ぼすネガティブな影響も科学的見地に基づいた研究調査結果で今般明らかとなり、白日の下に晒される局面に対峙しています。

これらの社会背景をもとに、各国間に於けるプラスチック使用制限などが盛り込こまれた国際プラスチック条約の締結が希求され、条約策定の最終段階を迎えています。

世界的に大きな問題であり課題となっているプラスチック。

プラスチックを取り巻く世界の動向、環境と健康に与える影響、そして、プラスチックによる弊害を低減するために私たち一人一人が取り組み可能なアクションについて、概観しながら考えてみましょう。
 

目次


1. プラスチック社会
1.1 使用状況と世界動向
1.2 プラスチックの形成過程
1.3 マイクロ・ナノプラスチックの生成
2. プラスチックが齎す弊害
2.1 自然と食環境の汚染
2.1.1 海洋汚染
2.1.2 陸上汚染
2.1.3 食品汚染
2.2 健康リスク
2.2.1 環境ホルモン
2.2.2 女性の健康
2.2.3 子どもの健康
3. 国際プラスチック条約
3.1 概要
3.2 課題と解決策
4. 私たちにできること
4.1 家庭
4.2 地域
4.3 組織
5. まとめ

 
 
1. プラスチック社会
先ずは、プラスチックの物質的特性とプラスチック使用の現在と未来について全体像を見ていきましょう。

1.1 使用状況と世界動向
プラスチックの生産は、19世紀に発展し、20世紀には飛躍的に生産性が向上し、市場に広く普及し現在に至っています。

20世紀中盤の1950年代には2百万トンであった世界のプラスチック生産量は、21世紀前半の現在、年間4億トンまで拡大。日本国内では、2022年における生産量は951万トン、消費量は910万トン、廃プラスチックの総排出量は823万トンと推定されています。

廃プラスチックの総排出量は、中国と米国で突出しており、この2大国による世界全体の排出量に占める割合は1/3に上っています。他方、日本も中国・米国・インドに次ぐ第4位のプラスチック高排出国の1つです。

プラスチック生産に関わる世界経済規模は、2017年の時点で約5,300億米ドルであり、2040年までに更に2倍の成長率が予測されています。

プラスチックの主な原料は石油であり、現在の石油産出量の約10%程度がプラスチック加工に用いられ、2050年には、石油の用途に占めるプラスチック製造の割合は約20%まで拡大されると推計されています。
 
1.2 プラスチックの形成過程
プラスチックは、原油を精製することで得られる「ナフサ」を原料として製造されています。原油を精製する際の沸点の違いにより、ナフサの他にも、ガソリンや灯油、アスファルトなどが形成されます。

ナフサを高温で熱分解し気化させ、気体の蒸留を繰り返すことで、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品を抽出。これらの基礎化学品を原料として、ポリエチレンやポリプロピレンというプラスチックが作られ、レジ袋や包装容器、包装用フィルムなどのプラスチック製品が製造されます。

製品化の過程に於いて、可塑剤や難燃剤を中心に様々な用途で添加剤が用いられており、添加剤の使用割合は、プラスチック生産量の7%を占めています。
 
1.3 マイクロ・ナノプラスチックの生成
ペットボトルやレジ袋など製品化されたプラスチックは、一見、堅牢で耐久性に優れているように考えられ普及していますが、実際には、プラスチックの劣化は生産直後から始まっていることが判明しています。

プラスチックは、紫外線や物理的衝撃により劣化し、破砕され、微細化し、マイクロ・ナノプラスチックが生成されることによって、海洋や土壌に侵出し、魚類などの海洋生物だけではなく、陸上生物である動物や私たち人間の体内にも容易に侵入しやすい形体に変化します。

プラスチックの劣化によりマイクロ・ナノプラスチックが生成されることによって、付加された添加剤も流出し、環境や動植物など生態系を汚染している実態も明らかになってきました。
 

2. プラスチックが齎す弊害
プラスチックがマイクロ・ナノプラスチックに微細化され、含有する添加剤などの化学物質が自然界へ流出。この事象に関連して発生している環境汚染や私たちの健康を脅かすリスク因子について、具体的に見ていきましょう。

2.1 自然と食環境の汚染
私たちの日常生活を取り囲む自然と食環境下で発生しているマイクロ・ナノプラスチックによる生態系汚染の実態について複層的に概観してみましょう。
 
2.1.1 海洋汚染
報道で度々目にするが如く、クジラやウミガメは、微細化されたプラスチックではなくとも、海岸に放置・廃棄されたストローやレジ袋などによって、プラスチック製品が胃内に滞留、また、身体を損傷する痛ましい被害が発生しています。

他方、微細化したプラスチックは、海洋や河川を漂い、海洋生物や淡水魚などの体内に取り込まれていきます。生物の体内に取り込まれた添加物などの化学物質は、生体内で濃縮されることが知られており、巡り巡って、私たちが口にすることも考えられます。

海洋生物種の1/4を支えると推計されているサンゴ礁。サンゴがマイクロプラスチックを大量に摂取することで死滅するケースも報告されており、マイクロプラスチックによる海洋汚染は想像以上に甚大である事実が眼前に広がっています。
 
2.1.2 陸上汚染
マイクロ・ナノプラスチックは、雨水等を介して農作物を育む土壌にも侵出します。

土壌中で検出されるマイクロ・ナノプラスチックの発生源として最も大きな割合を占めるのは紫外線、そして、走行に伴う劣化を受けやすい自動車のタイヤであることが判明。タイヤと同様の劣化条件を抱える人工芝も発生源として懸念されています。

また、微細化したプラスチックは、大気中を浮遊することで、私たちの体内へも日々侵入しています。
 
2.1.3 食品汚染
ペットボトル、カップ麺やトレイ・ラップ等食品包装材として使用するプラスチック資材からもマイクロプラスチックが流出することが分かっています。特に油分を伴う食品を梱包する資材からの流出割合は上昇します。

更に、コンビニ弁当など、電子レンジなどで加熱処理を行うことで、マイクロプラスチックが放出されやすい環境が整い、私たちが口にする食品へも影響が甚大化することが懸念されています。

毎日、知らず知らずのうちに少しずつ、飲食物と共に体内に取り入れているマイクロプラスチックの影響が、将来の健康状態に悪影響を及ぼさないことを願うばかりです。
 
2.2 健康リスク
ヒトの血液中や組織からも検出されるマイクロ・ナノプラスチック。マイクロ・ナノプラスチックに含まれる様々な添加剤。私たちの健康に対しこれらの物質は、実際、どのような影響を及ぼしているのでしょうか。
 
2.2.1 環境ホルモン
外因性内分泌攪乱化学物質が正式名称である環境ホルモン。その名が示す通り、環境中から体内に侵入し、ホルモン様の作用を齎すことで正常な内分泌の指示系統を攪乱し、誤作動を惹起させる化学物質です。

狭義では、女性ホルモンの受容体に結合し、エストラジオールなど女性ホルモン様の作用を齎すものを環境ホルモンと呼びます。

調査の結果、市販されているストローやマスク、スポンジ、ポリ袋・手袋、洗濯バサミ、ブルーシート、苗ポット、土嚢袋、人工芝など多くのプラスチック製品から環境ホルモンが検出されています。
 
2.2.2 女性の健康
環境ホルモンと総称される化学物質は、女性ホルモン様作用を有していることからも分かる通り、女性の健康には特にネガティブな影響を及ぼすことが懸念されています。

プラスチック製品のなかには、ポリカーボネートのように原料にビスフェノールAが溶出するもの物もあり、多量の溶出を制限する目的で規格基準が設定されています。

ポリカーボネート製容器・包装からのビスフェノールAの溶出量が制限されている理由は、ビスフェノールAが環境ホルモンである可能性が指摘されているからです。

疫学調査の結果、ビスフェノールAは子宮内膜症乳がん発症のリスクファクターとして示唆されています。また、妊婦の体内に取り込まれることで、ADHDや自閉症発症率が高まることも判明しています。

更には、プラスチック容器に入った市販の弁当や冷凍食品を週1回以上摂取する妊婦は、摂取しない妊婦と比較し、死産に至る割合が約3倍増加するという調査結果も報告されています。

周産期以外でも、心機能へのネガティブインパクト、糖尿病や肥満、免疫力の低下を惹起する可能性が示唆されています。

また、女性だけではなく男性にとっても同様のリスクが懸念されており、男性特有の健康リスクとしては、精子数の減少が指摘されているため、家族計画にも悪影響であると言えるかもしれません。

ビスフェノールA以外にも、プラスチックの添加剤として含まれているフタル酸エステル類や臭素化ジフェニルエーテル類も同様にネガティブインパクトが大きい化学物質であると言われています。
 
2.2.3 子どもの健康
子どもは大人のミニチュアではなく、心身ともに成長発達の途中にあり、臓器や身体機能も未発達の段階。身体容積も小さいため、成人と比較し、摂取した食物などが多大な影響を及ぼすことが懸念されます。

ゴムの劣化防止剤等として添加されるノニルフェノールも環境ホルモンの1つであり、曝露が多い場合、喘息の発症を惹起すると報告されています。

また、性的成熟の遅延や早熟を招くなど、子ども達の正常な発達を阻害する可能性も指摘されています。
 

3. 国際プラスチック条約
近年、プラスチックの製造および使用に伴う環境や生体に対するネガティブな影響が徐々に明らかとなってきました。

陸・海・空とひとつながりの地球に於いて、プラスチックが世界各地に齎す弊害は甚大です。この事実に対して、世界は、国際プラスチック条約の名の下、一致して規制する動きに乗り出しました。
 
3.1 概要
2022年3月の国連環境総会に於いて2024年末までに国際プラスチック条約として締結することを目標として決議。

2022年11月のウルグアイでの開催を皮切りに、半年ごとに開催されたプラスチック条約政府間交渉委員会は2024年11月末に韓国・釜山で最終となる予定であった第5回政府間交渉委員会を開催。

条文案の最終化に向けた議論へ進展した一方で、第3条プラスチック製品に関する条文案へ対し、産油国からの合意を得ることができず、本年2025年8月スイス・ジュネーブで開催予定のINC6へ持ち越しとなっています。
 
3.2 課題と解決策
環境学者であり当該分野の第一人者である識者は、汎用性のあるプラスチック製品による環境汚染と健康リスクを低減させるためには、曝露頻度を低下させることが第一であると指摘。

具体的には、給水器設置によるペットボトル削減の励行等、現行の50%削減を目標とすること、ビスフェノールAやフタル酸エステル類など高懸念化学物質の規制、発砲スチロールなどの高懸念ポリマーの規制、マイクロプラスチックを多く含む人工芝の規制などを挙げています。
 

4. 私たちにできること
私たちの日常生活で汎用されているプラスチック。環境汚染や健康リスクを齎す負の側面が判明した今、私たちが取り組むべきこととは一体何でしょうか。
 
4.1 家庭
プラスチックの消費主体者である個人と家庭では、使用頻度を低減させることが第一です。具体的には、マイボトルの持参や手作りお弁当、紙パック入りの商品を購入すること等が代替策となるでしょう。
 
4.2 地域
プラスチックの大量廃棄を削減するために、リサイクルを推進する回収ボックスの設置、地域づくりを促進させるコミュニティスペースに給水器を設置することが具体的なアクションプランとなるでしょう。
 
4.3 組織
CSRの観点からも、今後の消費者動向と環境保全の在り方を検討し、環境負荷の低減が可能な代替容器などの開発が必要ではないでしょうか。

また、健康経営の観点から、地域アクションプランと同様に、給水器の設置やプラスチック製品使用による弊害に関する啓発、プラスチック容器回収などのアクションプランも企業イメージを向上させることに繋がるのではないでしょうか。
 

5. まとめ
短期スパン・近視的に見ると便利で有用なプラスチック製品。

他方、中長期スパンで俯瞰的に概観し、メリットとデメリットを勘案した場合、必ずしも利便性が高い製品とは言い難い物であるように思えます。

現状のまま、漫然とプラスチック製品を使用することは、次世代に対し、大きな課題を残してしまう結果を齎すことが懸念されます。

「今だけ」の利便性と経済性に固執することなく、次世代も安心して暮らせるように、みんなで出来る限り良い物を残していきたいものですね。
 

【参考URL・資料】
子どもケミネット・JEPA共催院内集会配布資料
「プラスチックによる環境・人体汚染を防ぐためにプラスチック中のPFASや環境ホルモンの規制強化を!~国際プラスチック条約策定に向けて~」

外務省・環境省・経産省・農水省合同作成配布資料
「プラスチック条約:第5回政府間交渉委員会 (INC5) 結果概要」

The Pew Charitable Trusts
「Breaking The Plastic Wave Summary report」

環境省
https://www.env.go.jp/

一般社団法人日本エシカル推進協議会
https://www.jeijc.org/

三井化学株式会社
https://jp.mitsuichemicals.com/

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