パリ・ミラノ・ロンドン・ニューヨーク。世界の4大都市ファッションショー・ウィークの中でも最高峰と誉れ高いスタイリッシュな街、パリ。
華麗で豊かな歴史と文化を誇る首都パリを擁し、ファッション・美食文化・芸術作品で世界に名を馳せる一方で、農業大国でもあるフランスは、環境問題にも敏感なお国柄。
自然環境と生物の健康に負の影響を及ぼすPFASの低減と、予防原則の視点から規制を強化し、世界をリードするEUに於いて、フランスは、それを更に上回る独自の政策によって、様々な困難を伴うPFAS問題に果敢に取り組んでいます。
PFAS混入を測量する水質検査のみならず、2026年以降、PFAS規制対象製品は拡大の上、より厳格な取締りが行われます。
規制対象製品の中でも、年明けから、製品の製造・取引・販売が規制される衣料品と化粧品について、概要と背景を確認していきましょう。
目次
1. フランスPFAS事情
1.1 関連法規
1.2 禁止対象製品
2. 衣類・化粧品とPFASの関係
2.1 衣料品とPFAS
2.2 化粧品とPFAS
3. エコスコア表示
3.1 エコスコアとは?
3.2 法的根拠
4. EU経済と環境保全
4.1 REACHとPEF
4.2 環境に配慮した製品開発
5. まとめ
1. フランスPFAS事情
移動性・持続性・蓄積性の特徴を有し、永続的汚染物質であるPFASは、1940年代以降から工業製品に汎用され、日常生活の中で広く活用されてきました。
他方、近年では、食物連鎖を介して、生態系に多大な影響を及ぼすことが示唆され、日本と同様にフランスでも、水道水に含まれるPFAS量と地域偏在性に対する関心は非常に高く、監視と規制が強化されています。
PFASに関わる法令及び、2025年に改正された環境法に於いて、追加で禁止対象となった製品に注目して見ていきましょう。
1.1 関連法規
PFASが身体に及ぼす影響に関して、予防的見地から法整備が進められており、環境法の一部改正として、2025年2月27日に発出された「PFAS含有物質の有害性から国民を保護する法」(protéger la population des risques liés aux substances perfluoroalkylées et polyfluoroalkylées)は、PFAS対策の具体策が盛り込まれた代表的な法令。
PFAS加工が施された製品に接することで発症する可能性が示唆される健康リスクを未然に防ぐことを目的とし、対象製品に対し、2026年1月1日より段階的に、製造・販売・頒布・輸出入を禁止することを定めています。
1.2 禁止対象製品
2026年1月1日以降製造・販売・頒布・輸出入が禁止される製品は以下の通りです。
・PFASを含有する全ての化粧品
・PFASを含有する全てのワックス剤
・治安維持活動時に着用する衣類等の例外を除くPFASを含有する全ての衣料及び履物に使用される繊維
2030年1月1日以降は、製品加工過程に於ける必要最低限度内のPFAS含有量の例外を除き、原則として、禁止対象を全ての繊維製品まで適用を拡大し施行することも上述の法令に盛り込まれています。
2. 衣類・化粧品とPFASの関係
EUの政策に準拠した施策展開が図られているフランスに於いて、水道水への規制と並行し、2026年1月1日より、本国独自に、PFAS由来の撥水及び撥油コーティング剤が施された衣料品や化粧品対しても規制強化の意向が示されています。
これらの製品がPFAS規制強化対象製品として盛り込まれた背景について、各々の製品とPFASの関連性を見ていきましょう。
2.1 衣料品とPFAS
欧州に於いて、PFAS発生源として最も多くの割合を占める衣料品。
衣料品は、全世界で、PFAS含有製品の約35%の割合を占有しています。
PFASで処理された衣料品は、撥水性・撥油性・耐久性に優れるため、アウトドアやスポーツウェア等を中心に、長きにわたって広く活用されてきました。更に、ファストファッションの隆盛によって、使用量も増加。
衣料品への応用に於いては、上記のようなメリットが謳われてきた一方で、自然界に放出された際に、難分解性・持続性・蓄積性の特性によって、「環境汚染」という負の側面が近年クローズアップされるようになりました。更には、リユースやリサイクルとして用いることも不適であることも判明。
医療機関で用いられる感染防御具や消火活動で使用される防護具等、必要最低限の用途に於いては引き続き使用は容認されるものの、人体及び自然環境に対する負の影響を鑑み、基本的には、PFASを含有する衣料品の製造及びリサイクルは禁止される運びとなっています。
EU加盟国であるデンマーク政府もフランスと同様に、衣料品に対するPFAS規制を強化する意向を示しています。
2.2 化粧品とPFAS
撥水性・耐久性(持続性)・発色性の効果を有し、汗にも皮脂にもよれない、崩れ難く落ちにくい特性によって、パウダー、プライマー、アンチエイジングクリーム、マスカラ、口紅(リップクリーム)など、数多くの化粧品に汎用されてきました。
これらの中でPFAS含有量が最も高いのが、ウォータープルーフマスカラ。
化粧品は、ファンデーションのように直接皮膚に塗付し、口紅やマスカラのように口腔や眼の周囲に用いるなど、体内に取り込まれやすい要素を有しています。
環境への影響も然ることながら、健康障害を被るリスクも懸念されており、殊に、PFASとの関連からは、腎臓や精巣がん、総コレステロール値の上昇、肝障害、妊孕性の低下、甲状腺疾患が惹起される可能性が示唆されています。
フランス系大手化粧品メーカーのロレアル社は、2018年に、全ての製品からPFASを排除することを表明。
2020年には、米国カリフォルニア州に於いても、複数種のPFASを含む有害化学物質を化粧品の原料として使用することが禁止されました。
3. エコスコア表示
2026年1月1日より衣料品繊維や化粧品などを対象として施行される「PFAS含有物質の有害性から国民を保護する法」に先立ち、2025年10月1日から、環境保護を目的として、衣料品に対し、エコスコア表示推奨制度が開始されました。
エコスコア表示とは、一体どのような制度なのでしょうか。
3.1 エコスコアとは?
「環境コスト」と名付けられたエコスコアは、地球環境に負荷を与える温室効果ガスの排出・生物多様性への損害・水や資源の消費を含む16の要素(基準値)から算出され、合算値が大きい程、環境に対して負荷を与える製品であること示し、逆に、合計ポイントが低い製品は、環境負荷が小さいことを表しています。
エコスコアのポイントは、フランス政府の出資やオープンリソースを活用して開発された環境負荷算定ツール「エコバリーズ(Ecobalyse)」を活用して算出。
3.2 法的根拠
エコスコアの法的根拠は、2021年8月に公布された「気候変動対策・レジリアンス強化法」。
消費者に対し、信頼性が高く、分かりやすい方法で、製品が環境に及ぼす影響を明記することがエコスコア施行の目的であることが明言されています。
4. EU経済と環境保全
世界初の気候中立大陸となるべく、自然環境と経済活動の調和を目指して、The European Green Deal・グリーンディール政策を推進するEU欧州連合。
環境保全だけではなく、持続可能な開発を目指し、環境に配慮した製品開発も進められており、開発指標も提示され、産業界全体で取り組むことが可能な仕組みが展開されています。
一体、どのような仕組みが展開されているのでしょうか。施策内容を具体的に見ていきましょう。
4.1 REACHとPEF
持続可能な開発を基盤とし、私たちの健康を支える自然環境の損失を最小限に抑え、有害な化学物質が自然界に放出されないよう制御すると共に経済成長も促す。
これらの理念のもと、体系的に取り組むための枠組みとして、REACHとPEFが設けられています。
REACHとは、「Registration, evaluation, authorisation and restriction of chemicals」の頭字語から命名された化学物質の登録、評価、認可、制限に関する規制であり、化学物質によって人体及び環境にもたらされる侵害の脅威から保護すること目的とし、2007年に創設された制度です。
PEFとは、Product Environmental Footprintの略称であり、製品環境フットプリントと訳されます。製品開発工程に於けるエネルギーや水などの資源の消費量及び、含有する化学物質の種類や量、廃棄量など、生物や自然環境へ及ぼす影響も勘案した上で、製品を包括的に評価する指標です。
4.2 環境に配慮した製品開発
既に概観してきた通り、欧州連合加盟国に於いては、私たちの健康にも直結する地球環境に対して細心の注意を払い、製品の開発が行われています。
実行性を確実にするために、法整備や評価指標を設定しながら取り組む姿勢が欧州連合の特徴と言えるのではないでしょうか。
欧州連合は、領土が隣接し合う27か国の加盟国から成り、資源を分かち合い、相互理解を深め、統一見解を見出すためにも、明確な共通理念や指標が必然的に求められ、それによって、政治経済の基盤が形成されています。
世界の縮図である欧州連合が発する政策は世界を牽引し、次世代型の製品を生み出す力を有し、気候変動の時代に於いても、希望ある展望を見出させてくれます。
5. まとめ
知らず知らずのうちに私たちの健康や自然環境などの生活圏に侵食してリスクをもたらす化学物質。
日常的に使用している衣料品や化粧品にまでPFASは混在している事実を目の当たりにし、絶望的な思いに駆られることもしばしばある昨今、欧州連合の環境保全を視野に入れた製造工程の明確化は、心に救いをもたらしてくれます。
他国の施策展開も概観しながら、より良い情報と商品を取得する一助となれましたら幸いです。
【参考URL】
République Française
https://www.legifrance.gouv.fr/
JETRO
https://www.jetro.go.jp/
European Environment Agency
https://www.eea.europa.eu/
Réseau Environment Santé
https://www.reseau-environnement-sante.fr/
