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【日欧比較】DDT今昔物語・農薬フェーズアウトロードマップ前編

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【日欧比較】DDT今昔物語・農薬フェーズアウトロードマップ前編

「医食同源」は遠い昔にあった桃源郷の物語となってしまうのでしょうか。

世界各地で発生していた飢饉は遠い過去の話で、今では、肥満や生活習慣病が世界的問題となり、大量生産され、誰にも食されることが無かった食料品は大量に廃棄されるフードロスさえ生み出しています。

消費期限を延ばすことが本当にフードロス問題の解決策となるのでしょうか。

元々は、飢えて命を落とす人を無くすという崇高な思いのもと開発された近現代の農業生産システム。

他方、本来、医食同源の代表格であった穀物と野菜は、今や工業製品のように画一的な形状となり、ビニルで個別包装され、整然と陳列されて手に取りやすい「モノ」となった一方で、実際の食味と栄養価は低下しています。

都市化と工業化が凄まじい勢いで進む中、穀物や野菜を育む土壌も水質も変わってしまったのでしょうか。

利便性と効率性から生まれ、私たちが獲得した現代の“幸せ”とは?

EU欧州連合は、「過去」を振り返り、「現在」直面している課題を直視し、「未来」への提言、そして「今、行動」するための農業生産システムのロードマップを展開しています。

かつて、飢饉などをもたらした病害虫の駆除や除草に用いられる「農薬」に対し、どのような提言と方策を打ち出しているのでしょうか。

前編では、知っているようで実はあまり知られていない農薬の歴史と環境と人体に対するネガティブインパクトについて具体的に見ていきましょう。
 

目次


1. 農薬の定義と歴史
1.1 農薬の定義
1.2 農薬の歴史
1.2.1 DDTの隆盛と衰退
1.2.2 DDTの代替品開発
1.2.2.1 有機リン系殺虫剤
1.2.2.2 ネオニコチノイド系殺虫剤
1.2.3 化学農薬の開発と衰退まとめ
2. 農薬のネガティブインパクト
2.1 環境へのネガティブ要因
2.2 人体へのネガティブ要因
【前編まとめ】

 
 
1. 農薬の定義と歴史

1.1 農薬の定義
農薬とは、主に農作物を害する病害虫や雑草の防除に用いられるものを指し、一般的に、殺虫剤・殺菌剤・除草剤などをまとめて農薬と呼んでいます。

その他に、発根や着果を促す促進剤も農薬に含まれます。現在、日本国内では、有効成分として約600種類、製品としては約4,000種類が農薬として登録
 
1.2 農薬の歴史
農薬の歴史は2つの「世界大戦」、2つの大戦の間でアメリカを震源地として発生した経済危機「世界恐慌」、世界恐慌が引き金となって日本で勃発した農業恐慌とも呼ばれる「昭和恐慌」と深い関係があります。

第二次世界大戦で実用化され、その殺虫効果を科学的に証明した科学者はノーベル医学・生理学賞を受賞する栄誉に与り、日本国内でも水稲害虫に対し大きな成果をもたらした後、その殺虫効果は、人体へも有害であることが判明。

栄光から一転、1980年代に世界各国で使用が禁止され、2001年にストックホルム条約で製造・使用禁止となったDDTを一例として、農薬の歴史を見ていきましょう。
 
1.2.1 DDTの隆盛と衰退
時は20世紀初頭。

19世紀末にオーストリアの化学者によって初めて合成された有機塩素系化合物殺虫剤DDT

第二次世界大戦下では、戦死した遺体に涌いた蛆虫を殺虫する目的で使用され、戦後は、市民の身体に纏わりつくノミやシラミの駆除、家屋や農場に於いて害虫駆除として用いられました。

戦後は、用途も収益も縮小されたため、米国政府は、害虫駆除や除草剤として海外でも成果を挙げたDDTを含む化学薬品を農薬や肥料として転化し、広く世界に向け販路を拡大。

日本国内でも、第二次世界大戦後に化学農薬が導入され、主食である米作、園芸や森林と広汎にDDTが用いられてきた歴史を有しています。

DDTの使用の経過と共に、環境や農作物への残留、更に、人体への蓄積が問題視され、使用禁止、国内でも1971年に農薬としての登録が解除されました。

実際には、命の糧となる農作物を守るために、農業者に過度な負荷が掛かる環境要因を適切に処理し、環境にも過度な負担を掛けないことを目的として開発された農薬ばかりでは無いことが、過去の歴史からも知ることができます。
 
1.2.2 DDTの代替品開発

1.2.2.1 有機リン系殺虫剤
DDTなどの有機塩素系の農薬は農作物への残留性や魚毒性などの問題が判明し、農薬としての登録も解除されることに。

人体への毒性や生態系に於ける難分解性および蓄積性を克服することを目的として、代替品となる有機物にリンを加えた低毒性の有機リン剤が開発されました。

有機リン剤は、弱毒化することで農薬として用いられ、強毒化することで化学兵器として用いられています。強毒化した有機リン剤は、ナチスドイツが開発したサリンに類似した化学構造を持つと言われています。

その後、神経受容体と結合することで殺虫作用を示すネオニコチノイド系、マクロライド系、ジアミド系などが次々に開発されました。
 
1.2.2.2 ネオニコチノイド系殺虫剤
ネオニコチノイド系農薬はアセチルコリンの受容体の一種、ニコチン性受容体を標的としたニコチン類似物質であり、脳神経を興奮させ、脳内情報伝達網を攪乱させることで昆虫を駆除する働きを担っています。

ネオニコチノイドは水溶性であり、植物が根から吸収すると茎を通して全体に浸透し、虫が葉を食すと脳内情報伝達網を攪乱させるのみならず、死滅すると言われています。

世界各地でミツバチの大量死が生態系や生物多様性の破壊の一端として問題視されましたが、その原因物質がネオニコチノイド系農薬であることが判明しています。

ネオニコチノイド系農薬は、昆虫にのみ作用し、ヒトを含めた哺乳類には影響を与えないとして謳われていましたが、昨今の研究結果では、胎児および乳幼児、周産期に対する発達神経毒性が判明しており、自閉症を始めとした発達障害発症との関連性が問われています。
 
1.2.3 化学農薬の開発と衰退まとめ
開発当初は効果および安全性と共に、簡便、かつ、経済的であることが謳われますが、中長期で見た場合、環境および人体や動植物に有害である事例が少なからず存在しており、使用者も消費者も留意して手に取る必要があるようです。
 

2. 農薬のネガティブインパクト
農薬を用いることは、簡易な方法で、害虫や雑草を除去することを助け、農業者の負担や労力を軽減し、健全な作物の収穫高を確保することを可能にするといったポジティブな効果が謳われ、販売されていますが、農薬を使用してきた歴史の中で、負の側面も見えてきました。

環境面と人体に影響を与える農薬のネガティブインパクトにはどのようなものがるか、具体的に見ていきましょう。
 
2.1 環境へのネガティブ要素
農薬を用いる上で効果として常に謳われている「害虫の駆除」、いわゆる殺虫作用。

一見、駆除しているように見えますが、農薬を散布することで、実際には、害虫を増殖させているという報告がフランス国立農学研究所(INRA : Institut national de recherche pour l’agriculture, l’alimentation et l’environment)から発表されています。

農薬に含まれる成分である窒素と塩素により植物内にアミノ酸が形成され、害虫にとって絶好の栄養分となり、害虫が増え、かつ、同時に農薬に対する耐性も形成されるため、昆虫以外のバクテリアやウィルスも繁殖すると結論付けられています。

また、現存する化学合成農薬と肥料は、19世紀を生きたドイツ人化学者ユストゥス・フォン・リービッヒが提唱した、「植物に必要なのは窒素、リン、カリウムの単純な配合 (NPK比) だけだ」という明快である一方で簡略化され過ぎた理論を基盤として構成されています。

INRAによると、化学合成肥料には微量要素が含まれておらず土壌を酸化させ、化学合成農薬によって微量要素は欠乏するため、土壌のミネラル成分を減らす原因となり、土壌と植物双方の健康を阻害していることも指摘。

他方、20世紀を生き、リービッヒと同分野で活躍したフィンランド人の化学者でありノーベル化学賞受賞者でもあるアルトウリ・ヴィルターネンは、「無化学肥料かつ生物的窒素固定だけで集約農業が十分に営める」と主張しました。

INRAの見解によると、ヴィルターネンの主張に軍配が上がるようです。
 
2.2 人体へのネガティブ要素
前章では、DDTや有機リン剤による人体への毒性、および、ネオニコチノイド系農薬による神経毒性について取り上げました。

その他にも、農薬が与える人体へのネガティブインパクトとして、農業従事者に於けるパーキンソン病発症率の高さ、家畜(ブタ)の飼料として用いられる増量剤リン酸塩と成長ホルモン剤の影響による現代の肥満病の増加、アレルギーなどの免疫系疾患の惹起など、枚挙に暇がありません。

また、農薬のランドアップは、発がん性リスクを有しているとの見解から、フランスでは2019年に販売禁止。既に公園や緑地での使用は既に禁じられていますが、今後は、使用も全面禁止される予定です。日本では、特段問題視されず、使用は継続されています。
 

【前編まとめ】
歴史を振り返ると、今、どのように考え、行動すべきかを理解する手立てとなることがあります。

また、私たちの体を形成する食物はどのように生産し製造されているのかを知ることは、生産者の方々への感謝の思いを育むと共に、その風土や歴史を知る知識を蓄え、安全性についても考える力が身につき、味覚も養われ、最良の食材を選び、健康を維持・増進し、疾病予防や疾病からの回復に自然と役立てられるようになります。

例えば、砂糖の約600倍もの甘味がある人工甘味料のスクラロースは、ダイエット甘味料としても用いられますが、DDTと同様に有機塩素化合物の一種で、農薬を開発中に偶然発見されたものです。

DDTの他に、環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)のPCB(ポリ塩化ビフェニル)やダイオキシンも有機塩素化合物です。

「農薬」「化学兵器」「食品添加物」はそれぞれ違った用途で活用されていますが、起源をたどると近縁であることがわかります。

悠久の地球と人類の食文化の歴史の中で、100年程前に突如として現れた化学農薬と肥料。それらを活用して生産生育された農作物と家畜たち。

長い歴史の中で、毒性および安全性が確認されてきた自然界で形成された食物に対し、化学合成物質で作られた食料品に対する私たちの知見は十分に蓄積され、判断し得るだけの能力が身についているとは言い難い状況であるように思われます。

私たちの体を形成する食物の役割を考えたとき、化学合成物質によって大量に生産された食料品は、果たして、口にするものとして適切なのでしょうか。

結果だけを見るのではなく、その生産製造工程も知ることで、本当に体にとって必要なものをバランス良く手に取る術が身につき、自然に食育のステップとして役立つものとなることでしょう。

後編では、化学合成農薬と肥料に関わる規制と未来の展望について、日欧の比較も交えながら、具体的に見ていきます。
 
【参考図書】
「シン・オーガニック」 
吉田太郎 著  
 
「身のまわりの危険物の科学が一冊でまるごとわかる」 
齋藤勝裕 著

「本当は危ない国産食品 食が病を引き起こす」 
奥野修司 著

「化学物質の複合影響と健康リスク評価」 
青木康展 / 青山博昭 編

「安全な食事」の教科書
ジル=エリック・セラリーニ/ ジェローム・ドゥーズレ
 

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