お買い物で食料品を手にする際、皆さんは何を重要視し、何を目安に購入を決めていますか?
「栄養」「味の好み」「パッケージ」「価格」など様々な決定要因がある中で、手にした商品の背景に広がる世界とは?
その商品は、生産者、また、私たち自身や家族の健康にどのようなインパクトを与えているのでしょうか。
実際の生産現場の実情を見ながら、食と健康の関わりについて見ていきましょう。
目次
1. 世界の農業事情
2. 農薬のメリット・デメリット
2.1 メリット
2.2 デメリット
2.3 子どもに対する影響
2.4 女性に対する影響
3. 食のグローバル化と健康課題
4. 消費者心理と「表示」の関係
5. まとめ
1. 世界の農業事情
「世界人口推計2024年版:結果の概要」によると、世界の人口は2024年時点で82億人、2080年半ばで103億人のピークに達し、その後、減少すると推計されています。
人口の増加に伴い、食料の需要は、現在と比較して最大50%増加するという予測値も発表されています。
世界の農業従事者は、2013年時点で、約11億人と推計されており、労働人口の約1/3を占有。
労働人口全体として見た場合、農業従事者の割合は決して少なくはありませんが、サハラ砂漠以南に位置するサブサハラ・アフリカの国々では、1991年以降、労働者人口の割合は60%低下しており、大幅な減少となっています。
食料需要は高まる一方で、成人の農業従事者が減少すれば、必要に応じて駆り出されるのは子どもの労働力。
高い貧困率を有する農村地域では、農業に従事している割合の70%が子どもであると言われています。
2. 農薬のメリット・デメリット
農作物に害をもたらす病害虫や雑草の防除手段として用いられる殺虫剤・殺菌剤・除草剤などをまとめて農薬と呼びます。
農薬使用に際して、そのメリットとデメリット、また、化学合成物質による感受性が高い子どもと女性にとって、農薬はどのような影響を与え得るのでしょうか。早速、見ていきましょう。
2.1 メリット
げっ歯類動物、蚊やダニなどの昆虫による媒介、また、マラリア症、デング熱、エボラ出血熱、ライム病、西ナイル病など熱帯病を背景とする様々な致死的感染症、更には、医療機関および調理加工施設で発生する細菌感染症などから重症化へ発展することを阻止し、生命を保護します。
同様に、農作物に関しても、害虫の発症を阻止し農作物の収穫量を担保することで農業経営を支え、食糧難を回避する一助となっています。
2.2 デメリット
ガイドラインに従って適正に使用することで、人体への健康被害や、土壌・水質汚染は概ね回避可能ですが、かつて農薬として使用されていたDDT(ichloro diphenyltrichloroethane : ジクロロジフェニルトリクロロエタン)のように、難分解性・蓄積性などの化学的特性を背景とし、後にその有害性が判明することも稀ではありません。
現在は「安全」とされている化学物質も、予防的原則の観点から、人の健康の保護及び環境の保全を図ることを目的とするストックホルム条約(通称POPs条約)などで使用・製造中止および農薬登録解除に至るなど、残留性有機汚染物質として将来的に規制対象となる可能性は否定できないことに留意が必要です。
農薬が環境および人体に対して安全である確証は無く「暫定的」な側面も有することを考慮しなくてはなりません。
2.3 子どもに対する影響
子どもの身体は、脳神経を初め、発達途上の段階であり、また、身体容量も成人に比べ小さく、かつ、呼吸や血液体循環速度も速いため、成人と比較した際、農薬によるネガティブインパクトを10倍程度も大きく受けやすいという特性を持っています。
胎児期には、母胎内で保護された環境下で過ごし、出生後に体外環境へ適応するために必要な身体機能を形成します。身体機能形成に必要な食物は、母体から胎盤・臍帯を介して摂取。
胎児は、母親が摂取した食物や環境に対する感受性が非常に高く、母親の健康や環境要因から大きな影響を受けます。
2.4 女性に対する影響
女性の身体は生命を育む能力を有し、成長発達の各ステージに於いて、ダイナミックなホルモンの変化に晒されており、男性と比較して、化学合成物質に対する感受性が高く、影響を受けやすいという特性を持っていいます。
更には、世界で農業に従事する割合は、男性に対して女性でより多く、生殖年齢期に於いて、化学合成物質に曝露される職業に従事した女性では、他の職業に従事している女性よりも、出産に際して、新生児は白血病を始め、他の疾患に罹患する割合が多いと言われています。
よって、化学合成物質によるネガティブインパクトは、成人男性と比較し、女性と子どもでより重大であると考えられています。
3. 食のグローバル化と健康課題
教育不足などによる農薬の不適切な取扱い、不適切な農薬や化学合成物質による負の影響を受けるのは、アフリカやアジアの貧しい農村部で、多くの子どもや女性が農業に駆り出される地域だけで発生するのでしょうか。
食料品の裏面に小さな記載がある栄養表示欄に示されている原産国名を外国産、国内産如何を問わず「国内製造」と表示可能、あるいは、表示が推奨されている現代の日本社会に於いて、どの国や地域で、どのような生産方法によって、どのような労働環境下で生産された食料品であるのかを知る術はほとんどありません。
ましてや、加工食品、調理済み食品に関しては、それらを知る術は皆無です。
技術革新の恩恵により、フードロスさえ生み出す程の食料に囲まれ、食糧難の危機から脱するという長年の念願を達成した現代社会。
一方で、肥満などを背景とした生活習慣病の増加、遺伝や高齢化だけが背景とは考え難いがん罹患率の高い現代に於いて、化学合成物質の有害性に取り囲まれた食料生産体制を垣間見る時、もはや「医食同源」とは言い難い状況下で私たちは暮らしていると言わざるを得ない現実を抱えています。
4. 消費者心理と「表示」の関係
消費者にとって、品質も良好で手に取りやすい価格設定がなされていることが理想的です。
一方で、営利を目的とする事業者にとっては、原材料や労働力を安価で仕入れ、加工し、可能な限り最大の収益を得るための価格設定を検討する必要があります。
消費者として商品を目の前にした時、好きなアイドルやキャラクター、スポーツ選手などがパッケージに表示されていれば、手に取りたくなるではないでしょうか。
また、健康課題解決に即したキャッチコピー、赤字で示された低価格・お買い得商品も心惹かれる要素の1つであるかもしれません。
この行動心理は、著名な米国の心理学者であるアルバート・メラビアンが1971年に発表した「メラビアンの法則」により、情報を受け取る際に影響を与える要素として、視覚情報55%、聴覚情報38%、言語情報7%の割合であると示された通り、視覚情報が情報取得のプロセスで大きな割合を占めていることにも表れています。
実際に、裏面に小さく記載された栄養成分よりも、パッケージデザインや表面に表示されたキャッチコピーなどを目安に商品を手に取るのではないでしょうか。
特に、多忙な日常生活の中で、お買い物に多くの時間を費やすことは不可能な環境ではなおさらのことです。
肥満や生活習慣病の増加を背景として、消費者の行動心理に配慮し、食料品選択による健康へのネガティブインパクトを低減させることを目的として、EU(欧州連合)加盟国で考案・運用されている飲食料品に対するパッケージ表示制度がニュートリ・スコアです。
5. まとめ
「安さ」だけを追求すると、その背景で犠牲となるモノ・ヒトたちがいることも併せて考える必要があるのではないでしょうか。
また、それらを大量消費し続けることで、知らず知らずのうちに、私たちの健康状態を蝕んでいる可能性も否定できません。
「安い」の裏には訳がある。
実際には、「高い」ことが必ずしも高品質とは限らず、ネームバリューに過ぎないこともありますが、有機農畜産物のように、近代型の農畜産法と比較し、農業者の細やかな配慮を必要とすること、また、農作物の収量が減ることによって価格が割高であるなど、割高感の理由が明確、かつ、安心感・食味・栄養価と品質を考慮しても納得できる価格帯である場合が多いのも事実です。
交通網が発達したひとつながりの世界に於いて、人も動物も環境も物理的距離の遠近によらず短時間で繋がる時代であり、各々の健康状態も連鎖しあっていることを理解することが大切です。
【参考URL・資料】
農林水産省
https://www.maff.go.jp/
United Nations Children’s Fund (UNICEF)
「Understanding the Impacts of Pesticides on Children : A discussion paper」
January 2018