ふんわり柔らか良い香り...?? 洗濯用柔軟剤を使用した衣類から漂う高濃度の匂い。ベランダや職場に漂うタバコの臭い。
度々私たちのQOL(Quality of Life:生活・生命の質)を低下させ、悩みの種となる、臭い。昨今、「香害」としてメディア等でも取り上げられることが多くなりました。
これらの不快感をもたらす臭いは、1949年に米国のアレルギー疾患専門医により「病気」の1つとして見いだされ、1990年代には日本でも病気の概念として確立され診察開始となった「化学物質過敏症」の一症状であると考えられています。
男性に比べて、女性により多く見られる疾患の1つ、化学物質過敏症。
病態は未だに解明されておらず、症状を有さない周囲の人びとからは理解され難い疾患であることも悩みの種。
一方で、病態の解明までには至らずとも、発症を惹起する環境や対処方法は徐々に明らかになってきました。
現時点では発症していなくとも、妊娠という人生の一大イベント期間、あるいは、誰にとっても発症し得る疾患である化学物質過敏症について見ていきましょう。
目次
1. 化学物質過敏症とは?
1.1 概要(定義・原因)
1.2 症状
2. シックハウス症候群とは?
2.1 概要(定義・原因)
2.2 症状
3. ストレス状態の脳
3.1 脳内環境オーバーワーク
3.2 視床下部症候群とは?
3.3 視床下部の役割
4. 症状を回避し軽減するための方法
4.1 化学物質過敏症に有効な対策とは?
4.2 環境ファクターの調整
4.3 ライフスタイルの調整
5. まとめ
1. 化学物質過敏症とは?
1.1 概要(定義・原因)
1987年にCullenらによって、多種化学物質過敏症 (Multiple Chemical Sensitivity : MCS)と命名され、「はじめに高濃度の化学物質に暴露されるか、あるいは比較的低濃度であっても、長期に亘って曝露を受けた後に同種または多種の化学物質に過敏となり、極めて低濃度の曝露によって複数の臓器の症状を呈してくる疾患」と定義づけられました。
最新の知見では、「脳の反応が亢進した状態であり、多種の環境曝露やストレスに過敏になっている状態。中枢性過敏症候群や視床下部症候群が含まれる疾患である」との見解が示されています。
双方の見解から、ストレス過多の心身状態を背景として、高濃度の化学物質曝露による急性反応、あるいは、反復性の低濃度曝露を誘因とした慢性化の状態、加えて、ストレッサーである化学物質の滞留により悪のスパイラルを惹起し、脳の司令塔を過敏に反応させている状態と換言することができます。
また、化学物質過敏症の疑いがある患者さんの60~80%という高い割合で他のアレルギー疾患も合併しており、鑑別が困難な現代病。
1.2 症状
嘔気、動悸、皮膚炎、喘息、手足の冷えや発汗異常、集中力低下、不安感、月経不順、頻尿など、全身に亘る症状を呈しますが、化学物質過敏症として最も発症頻度が高い症状は、網膜の刺激症状、めまい、咽頭痛、筋肉痛、関節痛、頭痛、易疲労感であり、強度のストレスを受けた時に、これらの症状を呈しやすいと言われています。
これらの症状は女性に多く見られ、女性特有の疾患の随伴症状としても度々発生するものばかり。
化学物質への曝露など環境要因も検討した上で、早めに対処することが症状改善や治療を受ける上での助けとなります。
2. シックハウス症候群とは?
2.1 概要(定義・原因)
化学物質過敏症と同様に、化学物質の曝露を受け発症する症候群。シックハウス症候群は日本独自の呼称であり、諸外国ではSick Building Syndromeと呼ばれています。
化学物質過敏症との違いは、原因物質が建築資材に用いる揮発性有機化合物に限定されており、原因化学物質の曝露を高濃度に受けたことをきっかけとして発症する点。
広義には、化学物質以外のダニやカビなど、室内環境に起因する健康障害も含まれます。
「建物内環境における、化学物質の関与が想定される皮膚・粘膜症状や、頭痛・倦怠感等の多彩な非特異的症候群で、明らかな中毒、アレルギーなど病院や病態が医学的に解明されているものを除く」と定義されており、2004年に保険診療の適用となっています。
2.2 症状
主な症状は、めまい、咳嗽、頭痛、呼吸困難、皮疹。
3. ストレス状態の脳
3.1 脳内環境オーバーワーク
化学物質過敏症の病態が徐々に解明されてきている中で、化学物質の曝露により、海馬、視床下部、扁桃体などの大脳辺縁系を中心に神経炎が発生している状態であることが明らかになってきました。
「古い脳」とも称され、ストレス反応や情動、記憶、運動や疼痛の制御、内分泌の調整など、生命活動に不可欠な多くの心身活動と反応を担う脳の司令塔である視床下部の一部が鎮座する大脳辺縁系は、匂いをキャッチする嗅覚器とも密接な関係がある部位でもあります。
マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」の一節である、紅茶に浸ったマドレーヌの香りをきっかけに幼少期の思い出が蘇った体験は、香りを媒介とし、記憶と情動が瞬時に喚起され描かれた心象風景であり、大脳辺縁系の働きによるもの。
視床下部の制御が破綻することが発症の引き金となる視床下部症候群。化学物質過敏症もこの症候群の一部であるとの理解が進んでいます。
化学物質過敏症の大元となる視床下部症候群。一体どのような状態を指すのでしょうか?
3.2 視床下部症候群とは?
脳の視床は対内外からのすべての感覚情報を集約する部位。
視床下部症候群は、視床部に神経炎が発生し、視床下部による内分泌統制機能および自律神経の調整が破綻を来している状態であり、視床下部が担う概日リズムを崩壊させ、睡眠リズムの乱れ、過食や拒食などの摂食障害、体温調整不良、精神状態に混乱など、様々な症状を引き起こします。
第二次性徴の遅延や早発も来すことから、大人だけではなく、子どもたちにも関連する症候群。
慢性疲労症候群やうつ病、不安障害など、脳機能の過敏化に起因し生じる症候群を中枢性過敏症候群と呼び、視床下部症候群も同様の病態を呈していると言われています。
3.3 視床下部の役割
視床下部は、体内環境の調整を一挙に担う、内分泌系の最高司令官。内分泌と共に、自律神経の調整など、心身双方から生命活動の維持に重要な役割を果たす諸機能を統制する中枢部位です。
出産時の陣痛を引き起こし、授乳時には母乳の射出を促す愛情ホルモンの別称を持つ、女性の健康と深い関わりを持つオキシトシンは視床下部で作られています。
優しい印象とは裏腹に、怒りや攻撃性にも視床下部は関与しています。
4. 症状を回避し軽減するための方法
4.1 化学物質過敏症に有効な対策とは?
疾患名が示す通り、有害化学物質の曝露など外部要因を減少させることは第一ですが、併せて、発症の温床となり、過敏反応を誘引する活性酸素の除去など、体内環境を整えるための予防策を始めとする内部環境の調整も大切であることが米国人生物学者により推奨されています。
4.2 環境ファクターの調整
活性酸素が発生しやすい環境として、自然要因としては紫外線と大気汚染、食品や嗜好品としては食品添加物、タバコ、アルコール、インフラストラクチャー要因としては水道水と農薬、医療分野ではX線撮影や放射線治療が挙げられています。
そして、精神的・身体的ストレスが悪のスパイラルへ
4.3 ライフスタイルの調整
活性酸素を除去するためには、良好な栄養バランスが重要であり、特に、ビタミンとミネラルがその役割に大きく関与しています。
米国からの報告によると、活性酸素を除去する重要な働きを担い、化学物質過敏症を有する患者さんの約30%程度以上の割合で不足しているビタミン・ミネラルは以下の通り。
ビタミンC、ビタミンB2・6、葉酸、ビタミンD、マグネシウム。
不足している栄養素からも動物性と植物性食品のバランスが重要であることが垣間見られますが、その他にも、活性酸素除去に重要な役割を担うファイトケミカルが不可欠という点から、野菜を中心とした植物性食品を6~7割程度、動物性食品を3~4割程度にすることで、活性酸素を除去しながら、体内での吸収効率にも優れたバランスになります。
お野菜などは無農薬の物、無添加あるいは添加物を最小限に留めた食品など、化学物質を極力体内に取り込まない工夫も体内環境を正常(清浄)化するためのポイントです。
栄養だけではなく、程よいエクササイズを取り入れることで、より一層バランスの取れたライフスタイルにシフトできることは言うまでもない事実です。
5. まとめ
化学物質過敏症の原因となる化学物質。極力、化学物質に接触しないことが症状を回避し軽減する手立てとなるのは確実な一方で、一夜のうちに解決されるような問題でもありません。
そして、敏感で繊細な女性の心と体。
化学物質に対する“情報過敏”に陥り、新たなストレスを引き起こし、逆に症状を誘引し、増悪させないためにも情報の収集と活用のバランスも重要です。
しかしながら、新型コロナウイルス然り、化学物質過敏症然り、日ごろから培っているバランスの取れたライフスタイルが発症を予防し重症化を回避するための最良策であることに異論の余地はありません。
【参考図書】
「化学物質過敏症対策 専門医・スタッフからのアドバイス」
水城まさみ・小倉英郎・乳井美和子 著
宮田幹夫 監修
緑風出版
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