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市民革命再来!?民主主義先進国フランス国民が問う食と環境の未来

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市民革命再来!?民主主義先進国フランス国民が問う食と環境の未来

自由・平等・友愛」を象徴するトリコロールの旗を掲げ、民衆の先頭に立つ自由の女神・マリアンヌ

1830年に画家ウジェーヌ・ドラクロワによって描かれた「民衆を導く自由の女神」は、貧困に喘いでいた民衆が絶対王政に抗して蜂起し勝利を得た、1789年7月に発生したフランス革命(市民革命)の一場面を表しています。

200年以上もの時を経た今、同国では、立法の名の下に失われる可能性が示唆されている自然環境と健康に対して、若き女学生が先頭に立ち、短期間で多くの市民から法案撤回請願への賛同を獲得。請願署名を議会に提出することによって反旗を翻しました。

世界中で規制及び、議論が繰り広げられているネオニコチノイド系を始めとした農薬に関して、フランスに於ける論争と日本の現状を比較しながら見ていきましょう。

⇒【続報】はこちら
 

目次


1. ネオニコチノイド論争
1.1 Duplomb(デュプロン)法案
1.2 殺虫剤アセタミプリド
1.3 議論の行方
2. 工場廃水による水質汚染
2.1 フランス発PFAS論争
2.2 日本発PFAS論争
3. 特別栽培の盲点
3.1 ネオニコチノイド系農薬と日本
3.2 “特別栽培”が意味するもの
4. 失われつつある原風景
4.1 絶滅危惧種の赤トンボ
4.2 農薬が生態系に与える影響
4.3 水質とトンボの相関関係
5. まとめ

 
1. ネオニコチノイド論争
ネオニコチノイド系農薬は、昆虫神経のニコチン性アセチルコリン受容体に結合することで昆虫の神経伝達系を遮断し殺虫作用をもたらす薬剤。

水に良く溶け、作物体内に浸透、吸収部位から他部位へも広く移行し、長期的な薬効が期待できるため、多様な農作物に汎用されています。

農作物の収量や品質に対する効用が認められる一方で、欧州を始めとした諸外国の研究調査結果では、これらの高い薬理活性を背景に、農作物へ寄生する害虫だけではなく、人体や生態系への悪影響も示唆されており、規制の対象となっています。

一方で、汎用性や作業の効率化を背景に、昨今、規制緩和の法整備が再検討されてきました。

そこに、新たな展開が!

議論の国、フランスに於けるネオニコチノイド論争の一部始終を見ていきましょう。

1.1 Duplomb(デュプロン)法案
Duplomb法案とは、フランス共和党に属するローラン・デュプロン上院議員によるイニシアティブのもと、2025年1月27日に元老院(フランス上院議会)へ提出された農薬等使用に関する規制緩和策。

デュプロン氏は、酪農家を出自とし、農業協同組合に帰属。農業の効率化と収益性を主目的とし、化学物質や機械を用いて営まれる集約型農業(慣行農法)を支持しています。

Duplomb法案では、2018年に使用禁止となったネオニコチノイド系農薬であるアセタミプリドに対し、EFSA(欧州食品安全機関)等の規制当局に於いて、発達神経に対する有害性の確証が否定され、欧州では、2033年まで農薬としての登録が認められたことを根拠として、使用再開を要請。

2025年7月8日、下院である国民議会に於いてDuplomb法案は可決されました。
 
1.2 殺虫剤アセタミプリド
アセタミプリドは、ネオニコチノイド系の殺虫剤であり、農薬として日本での登録が認められたのは1995年。雑穀、いも、豆、果樹、野菜、飼料作物、花卉、樹木等、様々な農作物に使用されています。

他方、フランスを始めとした欧州各国に於いて、ネオニコチノイド系農薬は、極少量の使用量であっても、ミツバチ等昆虫に対する殺虫活性を有しており、人体へのネガティブインパクトが懸念されるとして、2018年以降使用禁止の予防的措置が取られてきました。
 
1.3 議論の行方
国民議会に於けるDuplomb法案の可決に際し、1人の若き女学生が白紙撤回を求め、立ち上がりました。

2025年7月10日、彼女は、国民議会の請願プラットフォームへ請願書を提出。更に、7月21日までに150万人による法案可決撤回請願署名を獲得し、議会へ提出。

請願署名は、30以上の国内および海外領土県から50万以上の署名を獲得し提出することで、可決案に対し撤回要請の効力を発揮します。

これにより、Duplomb法案の可決は撤回され、次の議会が開催される2025年9月16日まで議論が持ち越されることになりました。
 

2. 工場廃水による水質汚染
Duplomb法案可決撤回を機に、ネオニコチノイド系農薬の浸透性・持続性・蓄積性の善悪表裏一体の特性から、同様の論理により、水質汚染をもたらすPFAS再考まで争点は拡張され、議論は更に発展しています。

2.1 フランス発PFAS論争
ベルギーとの国境に位置するアルデンヌ県と北東部に位置するムーズ県では、基準値以上のPFASが検出され、飲用制限が設けられたことより、地域住民はミネラルウォーターを飲用する等代替策を余儀なくされる事態に。

現役世代及び次世代への健康を危惧する声が多く寄せられていると共に、水道使用料金に対する返金を要求する意見書を多数受領し、返金対応に至っています。
 
2.2 日本発PFAS論争
日本では、空調機器等を製造しているメーカーの製作所に於いて、2012年にPFASの一種であるPFOAの製造は終了したものの、地域住民から健康被害を危惧する声が寄せられていました。

地域住民の声を背景に、市民団体及び京都大学の調査チームが製作所がある近隣住民の血液検査を実施したところ、欧米諸国の基準値を大きく上回る検査結果を呈したことを受け、同調査チームは、2025年6月19日、結果公表に至りました。

当該企業は相談窓口を設置し、対応を迫られています。
 

3. 特別栽培の盲点
ネオニコチノイド系農薬は、生態系や人体にとってネガティブなインパクトを与えるのかもしれないという事実に対して、情報として浸透し始めたかのように思える日本の現況。

一方で、実際にどのような農作物に使用されているのかさえ私たちには知る術はなく、予防的に回避しようにも出来ない現実も立ちはだかっています。

3.1 ネオニコチノイド系農薬と日本
アセタミプリド以外のネオニコチノイド系農薬は、原則として使用禁止として規制されている欧州。

他方、日本に於いては、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、アセタミプリド、ジノテフラン、チアクロプリド、ニテンピラムの7種類に及ぶ有効成分に対し、農薬としての登録が認められています。

これらのネオニコチノイド系農薬の用途は、苗(稲)・果樹・柑橘類・野菜類・茶など、私たちが毎日食する農作物全般に及んでいます。
 
3.2 “特別栽培”が意味するもの
健康意識の高まりから、無農薬や減農薬への関心も拡大しています。

昨今では、野菜や穀物に対し、通常の農作物と比較し、農薬散布量や回数を減らして栽培したことを意味する“特別栽培”のラベルを目にする機会が増えました。

どのような農薬を使用しているのかについて知る術はない現状に於いて、真摯で親切な自然食品店では、慣行栽培と比較して、どの程度農薬散布量を減らしたのかを表示して下さる努力まで垣間見られます。

しかし、ここで今一度、ネオニコチノイド系農薬の特性について振り返ってみましょう。

浸透性・持続性・蓄積性

この特性により、農薬散布回数は低減が可能になるのです。

ネオニコチノイド系農薬を予防的に回避したいとお考えの皆様には悩みの種が増えてしまい心苦しい情報でもあるのですが、特別栽培農作物であっても、ネオニコチノイド系農薬が使用されている可能性は否定出来ないのが現実です。

選択するか否かの最終判断は個人に委ねられる事実に変わりはありませんが、適切な情報の開示と表示のあり方に関しては、再考すべきではないでしょうか。

近い将来、民意が反映される時代が訪れることを願います。
 

4. 失われつつある原風景
「夕焼け小焼けの赤とんぼ~」の童謡でお馴染みの赤トンボ。

赤トンボは赤色を呈するトンボの通称。その中には、既に絶滅危惧種として登録されている種も存在します。

日本人の心の故郷である原風景の一角を成していたトンボ。絶滅の危機に瀕している背景について見ていきましょう。

4.1 絶滅危惧種の赤トンボ
代表的な赤トンボであるアキアカネ。

1990年代後半から全国各地で減少しており、環境省のレッドリストでは、鹿児島県で絶滅の危機に瀕していることを示す絶滅危惧Ⅰ種、山口・徳島・香川・佐賀・長崎の5県で絶滅の危惧が増大していることを示す絶滅危惧Ⅱ種、三重・大阪・鳥取・広島・宮崎の1府4県で絶滅危惧に移行する可能性のある種を表す準絶滅危惧種として登録されています。

トンボが地球上に姿を現したのは3億年前。飛翔能力を有する昆虫の中でも、古くから生態系の中に存在し、ヒトと生活圏を共にしてきました。

長らく育まれてきた生命が、僅か数十年の単位で減少し、奪われようとしています。
 
4.2 農薬が生態系に与える影響
アキアカネの減少との因果関係として考えられているのが、1993年に導入されたネオニコチノイド系農薬である「イミダクロプリド」と、1996年に導入され、ネオニコチノイド系農薬と同様にニコチン性アセチルコリン受容体に結合し神経伝達系の攪乱作用を増強する「フルピラジフロン」。

何れの農薬に於いても、アキアカネの幼虫であるヤゴの致死率を上げることが、実験結果で明らかにされています。
 
4.3 水質とトンボの相関関係
トンボの幼虫であるヤゴの多くは、清流や良質な水辺を生息環境として好みます。

日本列島に於いては、2021年2月現在、204種のトンボが生息しており、世界中で確認されているトンボの科目数38に対し、日本単独で17科の生息が確認されています。実に、トンボの種の多様性に富む、世界でも稀な自然環境を有する国であると言えるのではないでしょうか。

ところで、最近、通常のトンボと比較して大きな姿態を有するオニヤンマ等、オニヤンマ科またはヤンマ科に属するトンボを見かけた記憶はありますか?いつ、どこで見かけましたか?

これらのトンボは、常時水流を有する水辺環境を生息地として好むことから、良質な水辺環境を好むトンボの中に於いても、殊に清水を好む傾向が強い種であると考えられています。

トンボは、森林と湿地の接点となる地帯で生命を育み、太古から存在してきた昆虫であり、里山の環境は、正にトンボが生息地として好む環境であったのです。

見かける機会が減少している背景として、トンボが暮らすための生息地を私たちが奪い取っている可能性が示唆されます。

人間にとって効率的で都合の良い環境が、同じ地球に暮らす動植物にとっては不都合であり、急進的な気候変動の一因となっていることを、生き物たちが身をもって私たちに教えてくれているのかもしれません。
 

5. まとめ
食品の安全性を科学的に評価する規制当局が有害性は低いと格付けし、他のEU欧州連合諸国では2033年まで使用が許可された農薬アセタミプリド。その使用再開を掲げたDuplomb法案に対し、なぜここまで否定的な反応が民意として発せられているのでしょうか。

それは、フランスが農業大国であること、食への関心が高いこと、政治への関心が高いこと、議論好きの国民性など、様々なファクターが挙げられますが、敏感に反応している最大の背景には、食品産業界に於ける企業や団体によるロビー活動への反発があるのかもしれません。

ロビー活動を通して、規制当局さえ取り込もうとする姿勢が垣間見られることに危惧感を示しているとも考えられます。

生命の基盤である食分野にまで通常のビジネス様式が応用されることに対する市民や団体による反発。

気候変動も急進している今、私たちを取り巻く環境について、各国及び世界共通の視点を持って再考する必要があるのではないでしょうか。

⇒【続報】はこちら
 
【参考URL・文献】
République Française
https://www.vie-publique.fr/loi/297070-proposition-de-loi-duplomp-agriculture-pesticides-bassines

La Fondation pour la Nature et l’Homme
https://www.fnh.org/loi-duplomb-danger/

C dans l'air - France Télévisions
https://youtu.be/LRbc3mtJ9ts

日本のレッドデータ 検索システム
https://jpnrdb.com

「農薬評価書 アセタミプリド(第3版)」
食品安全委員会 2014年12月

「日本のトンボ 改訂版」
尾園暁・川島逸郎・二橋亮 共著 
文一総合出版

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