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食の安全崩壊?GMO・ゲノム編集が健康と環境に与える影響【前編】

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食の安全崩壊?GMO・ゲノム編集が健康と環境に与える影響【前編】

世界人口の増加、気候変動、土壌および漁場の劣化の懸念から、世界的な食糧難の到来を危惧する一部有識者の声とイノベーティブな開発を食分野にも求め、スピード重視で近視的な成果主義に奔走するビジネスパーソンの思惑が相俟って、遺伝子組み換え食品に続き「ゲノム編集食品」が誕生し、市場へ放出されています。

遺伝子組み換え食品とゲノム編集食品は、自然界には存在せず、自然の法則を応用し遺伝子情報を人工的に操作し作られた「ゲノム編集技術応用食品」。

ゲノム編集技術応用食品は、自然と悠久な時の流れで育まれ、人間の英知によって大切に築き上げられてきた従来の食品の代替となる“夢の食品”の実現となり得るのでしょうか。

前編を通して、健康と環境への影響も踏まえながら、ゲノム編集技術応用食品への望ましい対峙の在り方について、一緒に考えてみましょう。
 

目次


【前編】
1. ゲノム編集技術応用食品

1.1 遺伝子組み換え食品
1.2 ゲノム編集食品
1.2.1 CRISPR-Casとは?
1.2.2 GMO・ゲノム編集食品取扱比較
1.3 従来の品種改良との違い
2. 健康と環境に与える影響
2.1 健康障害リスク
2.2 環境汚染リスク
[前編小括]

 

1. ゲノム編集技術応用食品
「出来ることなら避けたい…」無意識のうちに思考と行動が拒否反応を示す遺伝子組み換え食品。英語では、Genetically Modified Organism、略してGMOと呼ばれています。直訳すると、遺伝子改変(改編)生物。

ゲノム編集技術応用食品として、人工的に遺伝子改変(改編)が施された食品には、先述した遺伝子組み換え食品の他に、昨今よく耳にするようになったゲノム編集食品が挙げられます。

ゲノム編集とは、イノベーティブな新型の品種改良であり、遺伝子組み換えとは異なり、安全性は担保されているかように謳われることが多い、私たちが暮らす日本の現状。

一方、消費者(市民)運動も盛んな欧州に於いては、従来の遺伝子組み換え技術をOld Genetic Engireering(旧遺伝子操作技術)、ゲノム編集技術をNew Genetic Engireering(新遺伝子操作技術)と呼び、GMOの進化系でることを啓発、注意喚起を促す動きも見られます。

実際に、遺伝子組み換えとゲノム編集技術について概観しながら、従来の品種改良との違いについて考えてみましょう。
 
1.1 遺伝子組み換え食品
消費者庁による遺伝子組み換え食品による定義は以下の通りです。

遺伝子組み換え食品とは、別の生物の細胞から取り出した有用な性質を持つ遺伝子を、その性質を持たせたい植物等の細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質をもたせる技術を用いて開発された作物及びこれを原料とする加工食品

遺伝子組み換え技術では、自然では交配しない生物から遺伝子を持ってくることができるため、従来の掛け合わせによる品種改良では不可能と考えられていた特長を持つ農作物を作ることができる

現行の遺伝子組み換え技術は、除草剤の影響を受けない細菌の遺伝子を植物の遺伝子に組み込んだ除草剤耐性や害虫抵抗性を付与するなど農産物への応用が主流です。

言わば、農薬に対抗する役割と農薬の効果を高める作用を生物内に持たることによって農作業や農作物の収量拡大を効率化するための手法であり、近代工業的生産方法の1つ。

一方で、人体や環境・生態系への影響に関しては十分に考慮されているとは言い難い生産方法でもあります。

現在、国内で流通している遺伝子組み換え食品には、食品衛生法に基づく安全性審査を経る義務が課されています。

その中で「遺伝子組み換え食品」である旨の表示義務対象となる食品は、大豆・トウモロコシ・馬鈴薯・菜種・綿実・アルファルファ・甜菜・パパイヤ・からし菜の9農産物33加工品群。

世界的で流通している大豆の多くは、遺伝子組み換え技術を用いられ栽培されている一方で、国産大豆では、遺伝子組み換え技術を用いた農作物の栽培は現時点では行われていません。
 
1.2 ゲノム編集食品
ゲノム編集食品が生み出され、市場に放出されるまでの背景を遺伝子組み換え食品と比較しながら見ていきましょう。

1.2.1 CRISPR-Cas9とは?
ゲノム編集には、2人の女性研究者が共同開発し、2013年に生体内での実装に着手し成功を収め、2020年にノーベル化学賞を受賞したCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)という技術が用いられています。

CRISPR-Casとは、体内に異物が侵入した際に発動される獲得免疫システム。細菌などの生命起源に近い単細胞生物レベルに於いても当該機能を有しています。

CRISPR-Casシステムの主な構成要素はCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)と呼ばれる特徴的な塩基配列を持つDNAとCas(CRISPR-associated)タンパク質群。

Casタンパク質ファミリーであるCas9には、異物である外敵のDNA配列と結合が可能なRNAと、ターゲットとなるDNAを効率よく切断する役割を担う酵素ヌクレアーゼが含まれています。

ゲノム技術は、食用となる生物全般に用いられており、技術応用の一例として、レプチンという摂食抑制ホルモンの受容体遺伝子を切断し破壊することによって家畜や養殖魚を肥大化させ可食部を拡大したゲノム編集食品が既に市場で展開されています。
 
1.2.2 GMO・ゲノム編集食品取扱比較
遺伝子組み換え食品(GMO)は、元の生物には存在していなかった外来遺伝子を組み込む方法であり、新品種に外来遺伝子が残存し、自然界には存在しない交配プロセスであるため、栽培や飼育に際して承認・確認の申請が必要であり、かつ、安全性審査の順守や表示義務が設けられています。

一方のゲノム編集では、自然界でも発生し得る突然変異を模倣した技術であり、外来遺伝子は残存しないとの見解から、現行では、栽培や飼育に際して承認・確認の申請の必要は無く、安全性の審査も行われておらず、表示義務も設けられていません。

一部のゲノム編集食品には、市場展開に際し、厚生労働省指揮下に於いて、2019年10月より届出制度が設けられ、2023年5月時点で5品目の届出があります。既に市場展開されているゲノム編集食品は、GABA高含有トマトと高成長トラフグ。
 
1.3 従来の品種改良との違い
従来の品種改良では、食味や食感、自然環境への耐性などを強化することを目的として、自然界の法則に則り変異を促す環境を整え、新しい品種を生み出す手法。遺伝子情報に対し、人為的な直接介入は行われていません。

一方のゲノム編集技術応用食品では、、従来の品種改良との大きな相違点である遺伝子情報への人為的な直接介入が行われており、かつ、不都合な変異の発生と排除機能に対する将来的な予測が困難であり、PFAS同様、後に環境や健康へのリスクが判明することも懸念される遺伝子工学技術産物。
 

2. 健康と環境に与える影響
予防原則の視点に立ち、GMO・ゲノム編集食品が健康や環境に与える影響を見てみましょう。
 
2.1 健康障害リスク
遺伝子操作技術によってもたらされた変異は、新たな変異タンパク質を産み出し、想定外の新たな遺伝子配列を形成し、毒性成分への変化やアレルギー症状の惹起をもたらす可能性が示唆されます。

遺伝子組み換え食品に於いては、開発段階でアレルギーを惹起することが明らかとなり開発中止に至ったケース、動物実験で免疫低下が認められ実験段階で中止に至ったケースが過去の事例として報告されています。
 
2.2 環境汚染リスク
遺伝子組み換え食品に関しては、生物の生息環境の悪化及び生態系の破壊に対する懸念が深刻なものとなり始めていた1980年代以降、幾多に及ぶ政府間条約交渉を経て、1992年5月22日に採択された「生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD)」に基づき、1999年から2000年にかけて採択に至った「バイオセーフティ議定書」通称「カルタヘナ議定書」に則り安全性の評価が行われており、生態系に影響を及ぼすことが示唆され、厳格な規制と監視下に置かれています。

一方のゲノム編集食品では、自然界で発生する突然変異のプロセス上では排除される生殖に不適合な突然変異排除機能の有無を継続的に監視する技術を擁していないため、生態系への影響が未知数であるのが現状です。
 

[前編小括]
昨今、行政等の資料からは、私たち市民の不安を煽らないための心遣いと受け取ることもできる一方で、ゲノム編集食品に対する懸念を払拭し、“安全性”を全面的に掲げる文面に傾倒している感が否めません。

他方、開発および市場への展開が導入された歴史と経験値が浅く、検出方法や予測される環境や生体へのインパクトも未知数であるゲノム編集食品に対する各国の姿勢にも統一された見解はなく、問題を有するのか否かの判断は消費者自身に委ねられている現状。

一方で、消費者の意見を聞くまでも無く、“安全性神話”を盾に推進し、ゲノム編集食品に関しては、市場への展開が表示も無しに繰り広げられています。

ゲノム編集食品は、従来の品種改良と同様であるという科学的根拠は示されておらず、手法を検討した際、遺伝子操作であることは明らかです。

「ヘルシーでエコロジー」志向のマーケットに対し、今後、“減農薬” “気候変動対策”を謳い、安全性も不確かなまま、ゲノム編集技術応用食品の開発と市場での展開が加速する可能性も考えられます。

情報を言われたままに聞き取るだけではなく、情報を比較し熟考の上、取捨選択を検討する必要がありそうです。

続きは、後編へ。

【参考URL・資料】
消費者庁
https://www.caa.go.jp/

GENE EDITING – Myths and Reality: A guide through the smokescreen
「ゲノム編集−神話と現実 煙幕の中のガイドブック」
 The Greens/EFA
  クレア·ロビンソン (Claire Robinson, MPhil) 著
 OKシードプロジェクト
  印鑰 智哉 訳

Testbiotech
https://www.testbiotech.org/

Thermo Fisher Scientific
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/crispr-cas9_basic_bid_ts_1/

「CRISPR-Casシステムの構造と機能」
生物物理54(5), 247-252(2014)
新海暁男 著 理化学研究所横山構造生物学研究室

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