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エガリム法が原因?美食の国フランスを揺るがす卵インフレ事情

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エガリム法が原因?美食の国フランスを揺るがす卵インフレ事情

フランス料理の骨格を成す3本柱、バター・牛乳・卵。

これらの食材をふんだんに用いて作られる、キッシュ・ガトー・マヨネーズ。

その中でも、卵の存在感は際立っており、料理界でもパティスリーでも家庭の食卓にも欠かせない食材の1つ。

一方で、昨今では、LDL(悪玉)コレステロールの元凶、PFASの蓄積や鳥インフルエンザ問題の一角を成す渦中の食材としても取り上げられることもしばしば。

美食の国フランスで、Eggflation(エッグフレーション)という英語由来の造語と共に語られる卵の高騰化

フランス議会で、2018年に制定された農と食に纏わる適正価格バリューチェーンを実現するための法律・エガリム法が価格上昇の一因であるとの指摘もあります。

世界的に発生している卵の高騰化は、なぜ発生しているのでしょうか。

鶏卵消費国世界ランキング第2位の日本。

Eggflationは行き過ぎた資本主義社会の行く末にある大国アメリカだけの問題ではありません。

私たち、動物、そして地球環境の健康状態が、いかに大きく経済を揺さぶる所以ともなり得ることか、卵インフレ問題を通して見ていきましょう。

目次


1. エガリム法とは?
2. 卵インフレとは?
3. 卵インフレと世界の動向
3.1 アメリカ
3.2 フランス
4. 卵インフレの背景
4.1鳥インフルエンザ
4.2 戦争と飼料の高騰
4.3 フランス:識者の見解
5. まとめ

 
 
1. エガリム法とは?
全ての人が公正で健康的かつ持続可能な食料にアクセスでき得る食料供給体制の確立を目的とし、「食」と「農」に関わるサプライチェーン間の商取引に於いて発生する契約に纏わる諸事項に対する裁量権の均衡化を図るために、2018年10月30日にフランス議会で立法化された法律がエガリム法(EGalim : États généraux de l’alimentation)です。

施行後、議論を重ね、主に農業者の収益を保護することを目的とし、価格設定の在り方などに関する修正案を加え、2021年10月19日に改正エガリム法であるエガリム2法(EGalim2)を公布。

更には、2023年3月30日に、供給業者と納入者間に於ける裁量バランスの均衡化を強化することを目的とし、エガリム3法(EGalim3)を発効。

直近では、2025年3に月最終修正案が公布される予定であったエガリム4法(EGalim4)は、同年5月へ延長されるなど、白熱した議論が続いています。エガリム4法では、ステークホルダー間の裁量権の均衡化、とりわけ、農業など第一次産業従事者への収益拡大が大きなテーマとなっています。

常に議論の絶えないフランス。

お国柄が如実に表れている法の1つと言えるのではないでしょうか。

やはり「美食」の国であり「食」「農」更には「公正性」「健康」まで深掘りし議論する意識の高さが際立っています。

「フランス」という国家としてのアイデンティティと価値に対するプライド。国家としてあるべき姿を示そうとする強い拘りが立法化の過程にも垣間見られます。

権益が渦巻く商取引に於いて、最終ゴールである「目的」を最良化し実現するために、全てのステークホルダーを巻き込んだ議論は尽きません。

エガリム法は、今後も動向が気になる「農」「食」「健康」「公正な商取引」「消費者の権利と消費者保護」を包括した法律です。
 

2. 卵インフレとは?
大きな価格変動がなく、安定した供給体制、たんぱく源としての有用さ、栄養価の高さ、調理に於ける汎用性など、全ての人にとって手が届き易く、私たちの食卓に欠かせない卵。

Mサイズの1kg当たりの価格相場は、過去約40年間に亘り、年間平均価格100円台後半から200円台前半を推移してきました。

この安定路線が一転。

2023年に入り、突如、200円台後半から300円台半ばで推移し、年間平均価格は300円台に上ることに。

この鶏卵価格の高騰化は、卵のインフレーション、通称「卵インフレ」または「卵ショック」と呼ばれています。

原語が「Eggflation:エッグフレーション」という造語であることが示すように、米国を中心に、同時多発的に世界で発生した経済現象です。

日本国内では、2024年に再び価格安定路線へ推移しましたが、2025年の新年以降、2023年と同様の高騰化の兆しが見られています。

米国では、高病原性鳥インフルエンザが散発的に発生していることに加え、「卵」が中心の伝統行事であるイースター(復活祭)も間近に控え、卵インフレの再来が懸念されています。
 

3. 卵インフレと世界の動向
食料品、とりわけ、卵の高騰化は日本のみならず、世界でも同様に見られている現象。2022年以降のアメリカとフランスに於ける卵インフレ状況を参考に見ていきましょう。

3.1 アメリカ
米国労働統計局によると、2023年2月の鶏卵価格の前年同月比は、63.4%高値であったと発表。

一方、前年度2022年4月から2023年1月は、年間を通して高値で推移し、最低値であった2022年9月で120.2%、最高値を記録した11月の280.9%と過去最大となる高値取引で幕が閉じられました。

2025年3月の鶏卵価格は、前年同月比と比較し、350%上昇していると報告されています。

2024年の大統領選挙演説では、ドナルド・トランプ現アメリカ合衆国大統領が「インフレーションは過去48年間で最悪の事態」と発言し、「鶏卵価格低下」を公約として掲げていたことからも、アメリカの有権者にとって、鶏卵の破格的な高騰は深刻な問題であったことを物語っています。
 
3.2 フランス
2022年初頭から発生した世界的なインフレーション。

食料品にも物価高の波は押し寄せ、フランス国内でも、2021年12月から2022年12月の1年間の食料費は12%上昇、鶏卵は17%の上昇を見せ、翌2023年では、食料費7%上昇、鶏卵は9%と緩やかではある一方、物価は持続的に上昇傾向。

米国ほどの鶏卵価格上昇率は示していないものの、一定の上昇傾向を示す中、2022年の消費活動について、消費者の96.5%は鶏卵を購入したと回答しており、価格高騰が消費活動にマイナスの影響を大きく与えるまでには至っていません。

その理由は、主な蛋白源となる牛肉を始めとした食肉の価格と比較した際、鶏卵の栄養価に対するコストパフォーマンスは優れていることを挙げています。

実に合理的な考えに基づいた消費行動と言えるのではないでしょうか。

フランス国内で問題となっているのは、鶏卵の価格高騰よりも、むしろ、品薄な鶏卵の在庫状況ようです。
 

4. 卵インフレの背景
今回の卵インフレは、鳥インフルエンザ、中でも、感染力および致死性が強大である高病原性鳥インフルエンザウィルスの台頭によって、世界中に拡散され、感染が拡大し、採卵鶏などが大量に殺処分されていることが主な原因

同時に、新型コロナウィルスのパンデミックにより打撃を受けていた産業界、広大な穀倉地帯を持つロシアによるウクライナ侵攻など、疾病構造と社会情勢が複雑に交錯した時代の潮流にも翻弄される顛末。

早速、卵インフレの2大要因である「高病原性鳥インフルエンザ」および「ウクライナ侵攻と飼料価格高騰」について見ていきましょう。
 
4.1 鳥インフルエンザ
卵インフレの最大要因として取り沙汰されているのは、高病原性鳥インフルエンザ (HPAI:High Pathogenicity Avian Influenza) 発生に伴う採卵鶏の大量殺処分です。

高病原性鳥インフルエンザウィルスは、通常の鳥インフルエンザウィルスよりも感染力が高く、感染した際の致死確率は100%であると言われており、A/H5亜型のものとA/H7亜型のものが知られています。

A/H5亜型HPAIは、かつては、アジア地域の家禽で見られる疾病でしたが、2005年以降、渡り鳥への感染に伴いヨーロッパやアフリカ大陸で発生、2014年以降は北米大陸、2022年11月以降は、それまで発生が見られなかった南米大陸にもHPAIの感染が拡大。

2021年以降現在に至るまで感染が拡大している主な地域は東南アジアと南米諸国であり、現在では世界各地で発生国内でも発生事例が散発されています。

国内に於ける直近の感染例では、2024年10月17日に1例目が発生して以来、2025年3月21日時点で、14道県51事例が発生し、約932万羽が殺処分対象となっています。

2020年以降、環境中のウィルス濃度が高まっているとも言われており、野性鳥類や哺乳類にまで感染が拡大している状況。

米国の市場を席巻している卵インフレは、高病原性鳥インフルエンザ発生に伴う採卵数の減少が主な原因であることは事実である一方で、メディアによって扇動された消費者心理と供給業者による販売戦略が異常な高騰スパイラルを生み出しているとも考えられます。
 
4.2 戦争と飼料の高騰
昨今の食糧価格高騰は、FAO食料価格指数がロシアのウクライナ侵攻直後の2022年3月に過去最高を記録したことでも明らかなように、侵攻に伴い、世界の主要な穀物類輸出国であるロシアおよびウクライナから各国への供給が滞ることに市場が懸念を示したことが一大要因と言われています。

また、2021年終盤には、長引いていた新型コロナウィルス感染にも収束の兆しが見え始め、反動需要が過熱していた世界情勢を背景とし、供給縮小への懸念を一層深めることとなりました。

家禽の飼料は主に穀物類をベースとして作られており、低価格に留めるため、主要産出国からの供給に委ねている各国の事情が反映されているとも言えます。
 
4.3 フランス:識者の見解
フランス国内に於ける卵インフレ率は米国と比較して異常高値は示しておらず、2025年1,2月期の鶏卵販売数は、前年同期比を5%上回っており、需要と供給のバランスは維持されていると考えられています。

一方で、食料品店に於ける在庫不足は散発している状況も続いている様子。

2025年の鳥インフルエンザ発生動向は、2023年および2024年の発生動向と比較し、発生が頻発していることも無く、高病原性鳥インフルエンザが在庫不足および価格高騰に関与しているとも言い難い状況との指摘。

品薄状態は、米国市場の影響を受け、メディアの情報に翻弄された消費者行動心理の結果であるとの見解を示しています。

フランスの識者は、品薄状態による消費者のパニック心理を回避するため、年間価格調整は3月1日時点で既に完了していることを明言し、今後、大幅な価格上昇が発生する可能性を否定しています。

物価指数の上昇は、エガリム法の適用が一因とする見解も示しています。

消費者への冷静な判断を促すことが可能なのは、市場原理のみに委ねることなく、エガリム法を含め、EUのアニマルウェルフェア規制に則った採卵鶏の飼育方法など、高病原性鳥インフルエンザに起因し、異常なまでの価格高騰化と消費制限が大きく課される心配は無いことを説明し得る、ステークホルダーを交えて議論を重ねた健全な法規制を擁しているからではないでしょうか。
 

5. まとめ
昨今の鶏卵価格高騰の背景を理解するためには、高病原性鳥インフルエンザの発生と大量殺処分、新型コロナウィルスおよび世界の穀倉地帯ロシアによるウクライナ侵攻の終息遷延、メディアによる消費者心理の扇動、商機と捉える供給業者の思惑など、複雑化した社会情勢と地球環境の関係性を一つ一つ紐解いていく必要があるようです。

他方、経済が何よりも優先にされる現代社会に於いて、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴う市場の混乱を一顧した場合、予防原則に立ち、環境・ひと・動物の健康はひとつながりであることを考え行動することが大切であり、SDGsを実社会で実現する試みが個人・地域・組織、全てのレベルで求められていることを改めて思い知る機会となっているとも言えるのではないでしょうか。
 
【参考URL・資料】
Ministère de l’agriculture de la souveraineté alimentaire
https://agriculture.gouv.fr/

The American Farm Bureau Federation
https://www.fb.org/

FactCheck.org
https://www.factcheck.org/

農林水産省
https://www.maff.go.jp/

ASSEMBLÉE NATIONALE
「RAPPORT D’INFORMATION DÉPOSÉ en application de l’article 145-7 du Règlement PAR LA COMMISSION DES AFFAIRES ÉCONOMIQUES sur l’application de la loi n° 2018-938 du 30 octobre 2018 pour l’équilibre des relations commerciales dans le secteur agricole et alimentaire et une alimentation saine, durable et accessible à tous」

三菱UFJリサーチ&コンサルティング
「令和4年度フランスのEGalim法による食品の価格形成に関する実態調査委託事業報告書 令和5年3月」

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