妊娠中や授乳中はカフェインを含む飲料の摂取を控えることが推奨されています。
それは、当該成分が胎児や乳幼児に与える影響が大きいからだけなのでしょうか?
午後のティータイムなどで大活躍のカフェイン飲料。ひとり時間を楽しむ時も、友人と一緒の時も、ひと時の安らぎと華やぎを添えてくれる嗜好品。
ライフスタイルに潤いを与える反面、依存性や注意点も有するカフェイン飲料を日常的に飲用することは、女性の健康にとって有益なのでしょうか?それとも有害なのでしょうか?
目次
1. カフェインとは?
1.1 カフェインと植物
1.2 カフェインの歴史
1.3 カフェインの作用
2. カフェインを含む主な飲料
2.1 コーヒー
2.2 茶(緑茶・紅茶・ウーロン茶)
2.3 ココア(チョコレート)
2.4 マテ茶
2.5 コーラ
3. 女性の健康とカフェイン
3.1 女性のカラダ
3.2
PMS(月経前症候群)
3.3
骨粗鬆症
3.4 周産期
3.5 子どもの健康
4. まとめ
1. カフェインとは?
1.1 カフェインと植物
「カフェイン」と聞くと「コーヒー豆に含まれる成分」であると咄嗟に思い浮かびますが、カフェインが含まれている植物はコーヒーだけではありません。
日常的に飲用される代表的なカフェイン含有植物は「コーヒー木・茶木・カカオ木」の3種。
何れもメチルキサンチン類に分類されるカフェインおよびカフェインに類似した化学構造の骨格を持つ有効成分も含んでいます。
作用発現に要する時間差は生ずるものの、覚醒効果などカフェイン特有の作用がカラダに与える影響は同じ。
植物がカフェインを貯蔵している理由は、有害な菌類や害虫からの保身のためであり、殺虫・殺菌効果を得るためと言われています。
1.2 カフェインの歴史
19世紀初頭から後年にかけて、コーヒー・茶・カカオから各々の特徴を司る有効成分カフェイン・テオフィリン・テオブロミンを単離。
テオフィリンとテオブロミンは各々「神聖な葉」「神の食物」に由来する何とも神々しい名前が授けられています。
世界を虜にし、世界制覇を成し遂げたカフェイン飲料。
コーヒーは16世紀に日本へ持ち込まれたと言われていますが、最初に文献に登場したのは18世紀。
カカオを原料とするチョコレートは、コーヒーと同様に南蛮貿易を介して、室町時代後期頃に持ち込まれたと言われています。
和文化を代表する茶は奈良時代より飲用されていた長い歴史を有する飲料。
日本の茶祖の異名を持つ臨済宗の開祖・栄西禅師は2度に亘る入宋を経て、茶の栽培を行い、その経験知を「喫茶養生記」に記し、広く抹茶の効能や服用作法を伝えました。鎌倉幕府3代征夷大将軍・源実朝にも献本。
現代に生きる私たちにとっても深い学びが得られる名著であり、茶のライフスタイル活用法を明確に教示した指南書。
栄西禅師の崇高な観察眼を通して、テオフィリンの語源である「神聖な葉」と同様、茶は「聖なる医薬、天の至高の贈り物」であると教え諭しています。
1.3 カフェインの作用
カフェインの成分は、胃部および大半は小腸から吸収されます。
体内への吸収速度は、カフェイン、テオフィリン、テオブロミンの順で速く、血液循環に乗って血液-脳関門や胎盤関門も通過し全身を駆け巡ります。
カフェインの吸収速度はテオフィリンの倍速であり、また、飲料の冷温の違いによっても速度に変化が生じます。
カフェインの主な作用は、覚醒と興奮をもたらし、交感神経優位の状態へ誘います。気管支喘息治療薬の薬効もアデノシン受容体への拮抗作用や細胞内のカルシウムイオン減少による気管支拡張効果を応用したもの。
2. カフェインを含む主な飲料
世界を虜にしたカフェインは、今や、私たちの生活に欠かすことのできない嗜好品。その始まりは治癒効果を求めて。馴染みの深いカフェイン飲料について、カフェイン含有量と共に見ていきましょう。
2.1 コーヒー
刺激性飲料を表すアラビア語のqahhwa(カフワ)から派生したトルコ語kahveh(カフヴェ)を由来とするコーヒー。コーヒーベルトと呼ばれる赤道を基軸とした北緯南緯23.5度、熱帯雨林気候帯に属する標高1,000から1,500mの地域で栽培され、標高1,500m以上で産出された豆が一級品。現在、44か国で高品質のコーヒー豆を栽培。一般的に煎茶の2倍程度のカフェイン量。
2.2 茶(緑茶・紅茶・ウーロン茶)
長い歴史の中で培われた臨床経験知と研究結果の蓄積を基に有効成分として用いられてきたテオフィリン。当該成分は現在も気管支喘息治療薬の一つとして用いられている薬効成分です。
カフェイン含有量は抽出量・温度・時間によっても変わりますが、抹茶で最も高く、次いで玉露。煎茶(一番煎以外)は玉露の1/4、番茶・ほうじ茶は煎茶の1/2程度のカフェイン含有量。
米国独立戦争の引金となった紅茶。カフェイン含有量は煎茶(一番煎以外)と同等からやや高い程度。
下火になっていた茶文化が復活した明代に多様な製法が誕生したと言われ、同じ茶葉を用いた緑茶・紅茶・ウーロン茶の違いが出現。ウーロン茶のカフェイン含有量は番茶・ほうじ茶と同等。
2.3 ココア(チョコレート)
紀元前1500年頃にメキシコ湾岸沿いに誕生した古代アメリカ文明を築き上げた最初の先住民族・オルメカ族によって栽培開始。「カカワ」というオルメカ語を語源に持つカカオ豆。コロンブスにより、ヨーロッパに最初に持ち込まれたカフェイン含有植物。
純ココアでは玉露同等のカフェイン量である一方、ミルクココアでは微量。
また、カフェイン含有量に対して、中枢神経の興奮を抑制し睡眠へ誘う有効成分であるGABAやトリプトファンも多く含まれているため、カフェインの覚醒効果より催眠効果が謳われることも。
2.4 マテ茶
南米ブラジル・パラグアイ・アルゼンチンに自生。16世紀初頭のスペイン人による入植前から飲用されていたと言われています。カフェイン含有量は紅茶と同等。カフェインを含まないハーブティの一種として飲用している方も多いのではないでしょうか?
2.5 コーラ
西アフリカ原産でカカオと同科に属する常緑樹コラの種子コラナッツからカフェイン含有成分を抽出。19世紀には、特許医薬品のシロップ強壮剤として薬局で販売されていたコーラ。意外にも、350mlに紅茶1杯に相当するカフェイン量を含有。
3. 女性の健康とカフェイン
ティータイムで安らぎを与えてくれるカフェイン含有飲料。一方で、エナジードリンクなどカフェインを多量含有する飲料を多飲することで命に係わる症状に見舞われるケースもあります。カフェイン含有飲料が女性のカラダと健康に与える影響や飲用により健康リスクが危惧されるケースなどをご紹介します。
3.1 女性のカラダ
女性のカラダは命を育む可能性に備えた仕組みを有しており、エストロゲンに代表される女性ホルモンの分泌量に大きく左右されています。また、一般的に、男性と比較してカラダの表面積、臓器や筋量が小さいという傾向を有しており、必要とする摂取カロリーや代謝能力にも違いが生じます。
3.2 PMS(月経前症候群)
月経開始10日前くらいから開始日まで、頭痛・抑うつ感・眠気・集中力低下・乳房の張りなど、平常時とは異なった症状を呈する月経前症候群(PMS)。この期間は、食事の嗜好や睡眠パターンにも変調が発生しやすい時期。カフェインは、これらの症状を悪化させる一因であると言われています。
3.3 骨粗鬆症
過去に米国で行われた大規模調査の結果によると、長期間に亘るカフェイン摂取は骨粗鬆症の要因の1つである大腿骨骨折リスクが高まるとされ、コーヒーを1日1杯飲むだけでもリスクは増加すると指摘しています。一方で、エクササイズ習慣を含むヘルシーなライフスタイルを有する方はこの限りではないと補足説明。なお、加工肉に使用されているリン酸塩を多量かつ長年に亘って食すこともカルシウムの吸収を妨げる要因となり、骨粗鬆症の要因の1つであると言われています。
3.4 周産期
水溶性であるカフェインは、摂取後、急速に体内へ吸収され、胎盤関門も潜り抜け、全身を駆け巡ります。母体と栄養を共有する胎児および乳幼児は、消化器や腎機能が形成途中の発達段階。少なからず影響は発生し得るものと考え控えるのがベターではないでしょうか。なお、タバコは、カフェインの体内貯留時間を延伸させ、タバコとコーヒーの多飲といった負のスパイラルを招きます。
3.5 子どもの健康
過去に、コーヒー5杯に相当するカフェイン飲料を摂取した子どもが死亡する事故が発生しています。子どもの代謝機能は成人に向かって形成段階にあり、また、カフェインは耐性と依存性を招く特性を有しています。カフェインは予期せぬ飲料にも含まれている可能性もあり、また、試験勉強等に活用する、友人との交流で飲用するなど様々な場面が想定されます。身近な大人のサポートが大切です。
4. まとめ
有益と有害の間にある魅惑のカフェイン。適量嗜むことでココロとカラダにゆとりが生まれるものの、耐用量を超えることで有害事象として現れます。
ミント・カモミール・レモンバーベナなどカフェインを含まない消化や安らぎを助ける働きを有するハーブティも併せて飲用することで、魅惑のカフェイン飲料のみ偏愛することなく、多様な香りと味わいのダイバーシティを感じることができることでしょう。
【参考文献】
「カフェイン大全」八坂書房
ベネット・アラン・ワインバーグ 他著
別宮貞徳 監訳
「カフェインの科学」栗原久 著
学会出版センター
水道水・食品は安全?化学物質PFASが健康に与える影響
茶カテキンとフッ化物のハーモニーが功を奏するデンタルヘルス
女性の喫煙率1割未満の日本で肺がん死亡者数が多い理由とは?
パフォーマンス向上!時差ボケやメンタル不調改善にも有効な戦略的午睡