アンデス文明を文化の基盤とし、南米を中心として繁栄を誇った古代都市で栽培されていた栄養価の高い食物と言う印象が強いスーパーフード。
一見すると、私たちが暮らす日本には、存在していないかのように感じられます。
実は、日本にも、古代より脈々と受け継がれ、栽培され続けてきた、栄養成分豊かなスーパーフードがあるのをご存じでしょうか。
その代表格の1つが、赤米・黒米など古代米と総称される、いわゆる十五穀(雑穀米)に含まれている色彩豊かなお米です。
長い歴史を有し、かつ新しい、古代米。
その歴史と栄養成分について見ていきましょう。
目次
1. 古代米の概要
1.1 分類と色素成分
1.2 古代米の地域分布
2. 古代米の歴史
2.1 赤米
2.2 紫黒米
3. ポリフェノールと健康
3.1 概要
3.2 化学構造と働き
4. 古代米とポリフェノール
4.1 タンニン
4.2 アントシアニン
5. まとめ
1. 古代米の概要
古代米と現代米は何が違うのでしょうか?
お米の種類を大きく分類すると、うるち米ともち米の2種類が存在します。現在、私たちが日常的に食しているお米は主にうるち米。
つや姫などに代表されるように、艶のある輝きと甘み、そして、粘りのある白米が人気ですが、最近では、健康への意識の高まりから、玄米や3分づき米も市民権を得てきました。
玄米など精白しない、または、精白度の低いお米は、表層部にある糠層まで削ぎ落すことなく丸ごと頂くことが健康を高めるポイント。
その理由は、糠層にある胚芽に栄養成分が凝縮されているからです。また、精白度が低い故に、食物繊維も豊富に含まれていることもメリットの1つ。
とは言え、主流はやはり精米された白米。
一方の古代米は、糠層に、彩り豊かな特徴を醸し出す色素成分が含まれており、古代の稲が持っていた特性を色濃く残したお米。
古代米にはどのような種類があり、どのような色素成分が備わっているのでしょうか。
具体的に見ていきましょう。
1.1 分類と色素成分
色素成分に特徴がある古代米は、赤米・紫黒米・緑米と大きく3つの品種に分類されます。
各々の主な色素成分として、赤米にはタンニン系、紫黒米にはアントシアニン系、緑米にはクロロフィルが含まれています。
古代米には、色素成分に特徴がある品種の他にも、香りに特徴がある香り米があり、インダス河両岸のパンジャブ地方でのみ生産され、神様からの贈り物と称される最高品質の名高い古代米、バスマティが有名です。
 
1.2 古代米の地域分布
赤米は、日本・中国など東アジア及び、インド・インドネシアなど南・東南アジアと広くアジア全域で栽培されていると共に、米国やブラジルなどアメリカ大陸でも栽培が行われています。
紫黒米も、東南アジア一帯、中国、ネパールなどアジア全域で栽培。
緑米は、ネパール、ラオス、バングラデシュと南アジア及び東南アジアで栽培が行われています。
稲作農業は、世界人口の6割を占めるアジア圏の主食を賄っており、かつ、諸外国からも米文化・米食は高く評価されていることから、小麦と共に、非常に需要が高い食糧と言えるでしょう。
 
2. 古代米の歴史
「古代」とは一体いつ頃のことを指すのでしょうか。古代米である赤米と紫黒米の歴史的背景について見ていきましょう。
2.1 赤米
赤米の歴史は、2,000数百年前まで遡り、古代に日本へ渡来した日本型と、中世に中国から渡来したインド型に大きく2分されると考えられています。
インド型は不良水田に強い品種であったため、中世の11世紀後半から14世紀に中国から導入されたと言われています。
雨水だけでも十分に生育する耐乾性に優れている一方で、寒冷環境には弱く、日本国内では、主に関東地方以南で栽培されていたようです。
藤原宮や平城宮といった飛鳥時代及び奈良時代の遺跡から発掘された木簡にも赤米の記載が見られ、丹波・丹後・但馬などの周辺地域から都へ貢物として奉納されていた史実から、赤米が珍重されていた様子が想起されます。
 
2.2 紫黒米
1,500年以上前の古文書に記載された内容から、中国では、紫黒米は古くから栽培されていたことが分かっています。また、「薬米」と称し、漢方薬として用いられ、殊に、黒糯である「月米」と呼ばれる紫黒米のモチ種は、産婦の食事として用いられていたことを一例とし、女性特有の症状や女性の健康維持に役立てられていたようです。
 
3. ポリフェノールと健康
ここでは、健康に寄与するポリフェノールの効果を一躍有名にした「フレンチパラドックス」を概観しながら、ポリフェノールの作用について見ていきましょう。
3.1 概要
赤米と紫黒米の色素成分であるタンニン系色素とアントシアニン系色素は、共にポリフェノール由来の成分。
「ポリフェノール」という用語が使われ始めたのは1894年頃からと言われており、機能性に関する研究は20世紀前半から始まり、ポリフェノールの機能性が広く知られるようになったのは、1989年にWHOから発表された冠動脈疾患の発症に関わる報告書の公開以降であると考えられています。
WHOが発表した報告書の内容とは、動脈硬化性疾患の病態と摂取した食品の因果関係を解き明かした、ポリフェノールによる循環器疾患予防効果に関する論述。
動物性タンパク質や脂質を多く摂取する食文化を持つフランス人に於いて、心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症率が、他の動物性タンパク質及び脂質を多く食す食文化圏の住民と比較し低いことが判明。
フランス料理の特性を検討し、ワインとチーズ、ブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮)など、料理にワインを用い、また、食事と共に嗜むことで、赤ワインに含まれるポリフェノールがタンパク質分解や脂質酸化を抑制していることに起因するとこが明らかにされたのです。
この代謝システムを一言で言い表したのが、いわゆる「フレンチパラドックス」。
ポリフェノールによる健康への好適反応が、一躍、脚光を浴びることとなりました。
 
3.2 化学構造と働き
ポリは複数個以上を意味し、ポリフェノールは、フェノール性ヒドロキシ基を有した化合物の総称で、その種類は、8,000種以上にも上ります。
ポリフェノールは苦味や渋味、色調を与える品質因子であり、緑茶に含まれるカテキン、ココアやチョコレートに含まれるカカオマスポリフェノール、柿に含まれるタンニン、ウコンに含まれるクルクミンなどが有名です。
ポリフェノールは、植物が紫外線や外敵から身を守るために産出する色素や苦み等の成分であり、生体内で発生するフリーラジカルを消去する抗酸化作用をもたらし、植物を食す私たちにも恩恵がもたらされます。
抗酸化作用の他にも、抗菌作用、抗ウィルス作用がポリフェノールが担う大きな作用として挙げられます。
また、ポリフェノールは、腸内細菌叢の構成に大きな影響を与えると言われており、結果として、体内時計の調整や、メンタル不調を回避し軽減する抗ストレス作用も有しています。
忙しない日常生活で体内時計を狂わせる傾向にあり、ストレスフルな現代社会に生きる私たちにとって、必要不可欠な成分であると言えるのではないでしょうか。
 
4. 古代米とポリフェノール
健康に寄与するポリフェノール。
古代米の色彩を特徴づけるポリフェノールの一種である、赤米のタンニン、紫黒米のアントシアニンについて、その概要と働きを見ていきましょう。
4.1 タンニン
「皮をなめすもの」が語源であるタンニン。革製品の製造工程に於いて、皮革を植物から熱水抽出物などを用いなめすことによって、除タンパクを行っていたことに由来。
ポリフェノール研究は、1786年に、タンニンの基本的構成ユニットである没食子酸が発見されたことに端を発しています。
ポリフェノールの名称は、タンニンの定義に当てはまらないフェノール性水酸基を複数持つ植物成分に対して用いられるようになりました。
渋味が特徴的な成分であり、緑茶に含まれるタンニンはカテキンと称されています。
植物に於けるタンニンの働きは、渋味や苦味によって、被食者から捕食されることを防御し、少量では毒性は無く、大量に摂取することで有毒性へ変化します。
ヒトを始めとした捕食者にとっては、適量摂取であれば、糖や脂肪の吸収抑制を助けてくれる成分へ変化します。
その他にも、薬理作用として、口内炎やがんの予防、降圧作用が期待されています。
 
4.2 アントシアニン
金属の介在やpHによって色調が変化する特徴を有するアントシアニン。
ブルーベリーを始めとした、ベリー類に多く含まれる成分で、最も有名な作用として、肝機能や視力の回復が挙げられます。また、抗糖尿病・抗肥満作用と言った生活習慣病発症抑制やがんの予防にも効果的であることが判明しています。
紫黒米に含まれるアントシアニンは、シアニジングルコシドと呼ばれ、ベリーの主要色素であり、同様の作用を有すると共に、高い抗酸化作用を発揮します。
 
5. まとめ
火山活動を有する山々、緑豊かな森林や豊富な魚類・藻類を育む海に囲まれ、時に天災をもたらす大自然に対し、畏敬の念と共に、豊かな食材の恩恵に感謝し頂く食事。
四季折々の変化を愛で、季節の変化に伴う諸症状にも回復をもたらす和の食材。
太古から脈々と受け継がれ、次世代にも伝えたい食材がまだまだ沢山あります。
灯台下暗し。日本の食材にも、スーパーフードは存在します。毎日の食卓に取り入れることで、優れた栄養成分を体内に取り込み、健康を維持増進すると共に、食文化を自然に継承することができます。
古代米は、ポリフェノールの他、ビタミン・ミネラルも豊富に含み、かつ、糠層も残存した状態であるため、食物繊維も通常の精米されたうるち米より多く含む、自然に育まれた栄養補強食材。
食卓と体内に彩を与える古代米も取り入れてみませんか?
 
【参考文献】
「ポリフェノールの機能と多角的応用」
田中隆 監修
シーエムシー出版
「ポリフェノールの科学 基礎化学から健康機能まで」
寺尾純二 下位香代子 監修
朝倉書店
「新特産シリーズ 赤米・紫黒米・香り米「古代米」の品種・栽培・加工・利用」
猪谷富雄 著
社団法人 農山漁村文化協会