2019年時点で、世界の死亡年齢の中央値は76歳。2050年までにその中央値は、81歳まで上昇すると推計さています。
日本のみならず、高齢化・平均寿命の延伸は世界的潮流である一方で、早期死亡を減少させるべく、予防戦略に総力を挙げて取り組むグローバル社会。
早期死亡の約8割を占める最大の要因は、空気汚染であり、予防戦略の重点的課題です。
一体、早期死亡とは具体的に何を意味し、空気汚染は早期死亡とどのような因果関係があり、早期死亡を減少させるためにどのような予防戦略が検討されているのでしょうか。
早期死亡・空気汚染・予防戦略を概観しながら、私たちが日常生活の中で取り組むことができるアクションについて、一緒に考えてみましょう。
目次
1. グローバルヘルスクライシス
1.1 早期死亡の定義と概要
1.2 グローバルヘルス2050
2. 早期死亡の最大要因
2.1 屋外空気汚染
2.2 屋内空気汚染
3. 空気汚染と健康障害
3.1 女性の健康
3.2 子どもの健康
4. 空気汚染防止戦略
5. まとめ
1. グローバルヘルスクライシス
2019年の年末に中国・湖北省武漢市で突如として発生したCOVID-19こと新型コロナウィルス。
縦横無尽に張り巡らされた交通網を利用し、世界中を自由に闊歩する人の移動に伴って、新型コロナウィルスは瞬く間に世界を席捲し、パンデミックと化しました。
各国政府は、長らく収束の兆しが見えないCOVID-19対策に苦慮を強いられながら、世界中で燻っていた紛争の火種は徐々に激化し始め、ロシア・ウクライナやイスラエル・パレスチナ情勢の緊張関係も一気に紛争へと発展。
低価格と安定供給が求められる消費文化の中で発展を遂げた食のグローバル化やエネルギー供給体制に於いて、長引く紛争によってもたらされる物価の世界的高騰に垣間見られるように、食糧やエネルギーを一国だけで賄うことは、もはや困難である現実に、私たち一人一人が対峙することとなりました。
これらの情勢を介し、ひとつながりの地球に於いて、遠方の異国で発生した事象は、もはや対岸の火事ではないことは明らかとなっています。
平均寿命が延伸される一方で、グローバルヘルスの危機的状況を迎えている今、世界との均衡を図りながら、実質的な幸福をもたらす生命の質を高める取り組みが、各国政府、非政府組織、そして、私たち一人ひとりに求められています。
1.1 早期死亡の定義と概要
早期死亡とは、70歳未満で死に至ることを指し、早期死亡率の高低は、人口に占める70歳未満の死亡割合を知る指標となります。
世界の早期死亡率平均は、2019年時点で31%であり、1970年時点の56%から大幅な改善が認めています。その中でも、日本の早期死亡率は、イタリア・韓国と同率の12%で世界のトップクラス。
一方で、ナイジェリアの63%を最高値に、コンゴ共和国51%、ケニア55%と人口の半数以上が早期死亡に至る格差も悲しい現実として残存しています。
COVID-19発生前までは着実に改善の兆しを見せていた早期死亡率とグローバルヘルス。
他方、2050年までに2,500万人以上の死者をもたらすパンデミックは約50%の確率、死亡者1億人以上の規模は1/7の確率で発生すると予測されています。
気候変動の急進も加わり、グローバルヘルスは不確実な時代へ突入。
1.2 グローバルヘルス2050
グローバルヘルス2050は、50 by 50 とも称される世界的な予防戦略であり、すべての国が、2050年までに現在の早期死亡率を50%低減させることを目標としています。
50 by 50 達成を目指し、ランセット健康投資委員会によって選出された世界各国が取り組むべき優先課題は、「感染症及び母子保健分野」から8つと「非感染性疾患及び外傷関連課題」から7つ。
上記15項目に含まれる具体的な対象は、前者が新生児疾患・気管支炎などの下気道感染症・下痢性疾患・HIV/AIDS・結核・マラリア・ワクチン予防接種・妊娠高血圧症候群などの妊娠関連疾患。
後者では、動脈硬化性心血管疾患・出血性脳卒中・子宮頸がん等感染症と関連が深い非感染性疾患・肺がん等喫煙と関連が深い非感染性疾患・糖尿病及び慢性腎臓病・交通事故による外傷・自殺です。
2. 早期死亡の最大要因
心血管疾患・脳卒中・糖尿病・慢性呼吸器疾患を含む非感染性疾患は、世界の全死亡原因の74%を占め、その3/4に該当する1,700万人もの人々は70歳未満の早期死亡に至っています。
非感染性疾患の主な原因は、喫煙・運動不足・過剰飲酒・無理なダイエット、そして、空気(大気)汚染。
その中でも、空気汚染は、喫煙と共に非感染性疾患及び早期死亡の2大要因です。
世界的の課題である空気汚染の原因について、屋内と屋外双方から現状を見ていきましょう。
2.1 屋外空気汚染
屋外空気汚染、いわゆる、大気汚染の原因となるものは、化石燃料の使用・ゴミの燃焼・自動車の走行・居住空間に於けるエネルギー消費・工業生産過程・焼畑農業及びその他、人間の活動に伴う様々なエネルギー使用です。
屋外空気汚染によって、年間、420万人もの人々が早期死亡に至っており、その90%は、WHO南東アジア地域及びアジア・パシフィック地域の低中所得国で発生しています。
2.2 屋内空気汚染
屋内空気汚染の主な原因は、従来型の火や石油を用いた調理と暖房設備によるもの。
2020年時点で、屋内空気汚染は、全世界で320万人余りの死亡に関与していると考えられており、その内、5歳未満の子どもたちは、237,000人を超える割合で含まれています。
3. 空気汚染と健康障害
私たちは、毎分12回に亘り、外気を体内に取り込んでいます。鼻口腔を通して体内に取り込まれた外気に含まれる物質は、酸素と共に血液に乗って全身を循環。
鼻腔などに存在するフィルター機能によって、ある程度の不純物は除去されますが、外気に含まれている汚染された物質も体内に取り込まれ、全身の臓器に影響を及ぼします。
ここからは、空気汚染が惹起する疾病について、殊に影響を被り易い、女性と子どもの健康を中心に見ていきましょう。
3.1 女性の健康
慢性疾患による早期死亡原因の83%は空気汚染に起因しています。空気汚染と感染性の強い慢性疾患は、虚血性心疾患・脳卒中・肺がん・慢性閉塞性肺疾患(COPD)。
更には、喘息・糖尿病・腎機能不全・認知機能低下・認知症・不安症などのメンタル不調との関連性も示唆されています。
何れの疾患も男女共に高い罹患率が見られますが、体内への汚染物質摂取量と性差による臓器の体積や感受性の違いに基づき、健康障害を被るリスクは、女性でより高いと考えられます。
殊に、PM2.5レベルの微小粒子空気汚染物質は、血液循環にも取り込まれやすく、肺胞まで届き、各所で炎症反応や危害を加えるリスクファクターとなります。
3.2 子どもの健康
大気汚染によって最も健康障害を被るリスクが高いのは、呼吸回数が多く、臓器も発達段階にある乳幼児や若者たちです。
肺機能や脳神経発達遅延への影響や、喘息をはじめとした呼吸器疾患、心因性の不和及び問題行動を惹起し、不安や抑うつ症状の発症も懸念されています。
汚染された空気は、子どもたちの教育環境に悪影響を与える一方で、清澄な空気は、子どもたちの記憶力を6%も改善させる効果を有していることが判明。
子どもたちが暮らし、学ぶ空間は、良識ある大人たちによって、守られるべき環境と言えるのではないでしょうか。
4. 空気汚染防止戦略
第一に挙げられる空気汚染の予防戦略は、喫煙対策です。
空気汚染と共に早期死亡の2大要因であるタバコは、従来型または加熱式の如何を問わず、PM2.5の発生源であり、空気汚染物質の1つでもあります。
有害物質及び発がん性物質を含み、かつ、PM2.5レベルで全臓器に隈なく到達可能なタバコは、排除されるべき優先課題物質であると言う認識は、世界共通の見解。
「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約:The WHO Framework Convention on Tobacco Control」、2005年2月27日に条約が発効された、通称FCTCは、同年、日本に於いても効力が発生。締約国は、2023年8月現在で183か国に上っています。
タバコによりもたらされる健康障害は、科学的に証明されており、条約に基づき、屋内外に於ける禁煙施策展開やたばこ産業によるスポーツイベントなどへのスポンサーシップの禁止、広告規制が課せられています。
空気汚染の予防戦略は、屋内調理・交通機関・農業・ごみ処理施設に於ける代替クリーンエネルギーへの変換など、先進的な国々の取り組みによって、近年、動きが加速しています。
5. まとめ
日本全体として、早期死亡率は低い傾向である一方で、その地位に甘んずることなく、早期死亡の最大要因であり、子どもたちや女性の健康とも関わりの深い空気汚染に関しても、低減に努めることが望まれています。
環境要因は、個々の健康状態に関与するだけではなく、教育や生活の質にも影響を及ぼします。
陸・海・空とひとつながりの世界を取り巻く空気汚染は、自分のためにも、周囲のひとのためにも、世界の人々ためにも、動植物のためにも、改善に努め、少しでも清澄な空気を次世代に繋ぎたいものです。
【参考URL・資料】
WHO
https://www.who.int/
CLEAN AIR FUND
https://www.cleanairfund.org/
WHO FCTC
https://fctc.who.int/convention
JICA
「グローバルヘルス2050
今世紀半ばに向けた早期死亡半減への道筋 (日本語版)」