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【日欧比較】ミツバチを救え!農薬フェーズアウトロードマップ後編

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【日欧比較】ミツバチを救え!農薬フェーズアウトロードマップ後編

EU欧州連合は、環境と人の健康に関わる農薬の「過去」を振り返り、「現在」直面している課題を直視し、「未来」への提言、そして「今、行動」するための農業生産システムのロードマップを展開しています。

病害虫の駆除や除草などに用いることで豊かな収穫高と品質を担保する手段となる一方で、その副作用として、生態系や人体へネガティブなインパクトも与えてきた農薬。

EUは、生態系循環および生物多様性の喪失、人体および動物が直面している疾病構造の変化を過大な副作用として捉え、多くのステークホルダーが関わる食産業に於いて一進一退の取り組みとなる中、修正を加えながら、農薬取扱に関する法制化と定着化を着実に進めています。

2050年をゴールとしたパラダイムシフトに向け、どのような方針を打ち出し、未来への提言を行っているのでしょうか。

後編では、化学合成農薬と肥料に関わる規制と未来の展望について、日欧の比較も交えながら、生物多様性の一角を担うミツバチへの危害および農薬使用に関する法令遵守の推進を一例として、具体的に見ていきましょう。
 

目次


3. 生態系維持へのチャレンジ
3.1 ミツバチを救うドイツの取り組み
3.1.1 欧州市民イニシアチブと立法化
3.1.2 生態系を維持する有機農業
3.2 ミツバチを救う日本の取り組み
4. 農薬取扱とパラダイムシフト
4.1 EUの農薬フェーズアウト勧告
4.2 日本:農薬被害リスクアセスメント
5. まとめ

 
 
3. 生態系維持へのチャレンジ

3.1 ミツバチを救うドイツの取り組み
2009年、スウェーデンの科学者であるヨハン・ロックストローム(Johan Rockstrom)博士が警鐘を鳴らした「人間の生産消費活動によってもたらされた地球環境への過大な負荷が地球の収容力を圧迫し限界に達している」という迫りくる現実への危機感。

私たちが生活する上で最も大きな比重が置かれている消費活動が「食」であり、生産活動が「農畜産業」です。

ミツバチの絶滅危機に直面し、消費者である市民および生産者の結束で、法改正までこぎ着けた、ドイツ・バイエルン州で展開されたキャンペーンを一例に課題認識からムーブメント、そして、変革に至るまでの一連の取り組みについて見ていきましょう。

3.1.1 欧州市民イニシアチブと立法化
現行の農薬を用いた農業生産方法が、生物多様性の喪失に繋がっており、生態系の変化、気候変動を加速させていると環境危機を訴えかけるキャンペーン活動が、2019年、ドイツ・バイエルン州で繰り広げられました。

この訴えは、「農薬の使用が原因でミツバチが今や絶滅危惧種となりつつあると共に、養蜂家の経営を圧迫している」と言う内容。

ミツバチは、私たちに食物として蜂蜜を供与するだけではなく、植物間の受粉にも介在し、生物多様性の一端を担っています。

生態系の一角を担うミツバチが、植物に散布された農薬を介して、大量死に至ったことをきっかけに「ミツバチと養蜂家を救え」のスローガンのもとスタートしたキャンペーン活動は、瞬く間に、有権者の1割を超える署名を集め、住民投票を経ずに、2か月後には、バイエルン州の改正自然保護法を成立させました。

更に、翌年には、ドイツ全土に効力を持つ法案にも影響を与えることに。

同時に、欧州連合加盟国全体に影響を及ぼす欧州委員会での発言力を高めることを視野に、欧州市民イニシアチブ(European Citizens’ Initiative=ECI)にも登録し、大きなムーブメントを生み出しました。
 
3.1.2 生態系を維持する有機農業
中立的立場で調査結果を公開する連邦政府系のシンクタンクは、2019年に報告した有機農業と慣行農業の比較調査結果の中で、水質保全、土壌の肥沃度、生物多様性、気候変動の抑止の観点から、化学農薬と肥料を用いた慣行農業から有機農業へ転換することにより、環境負荷を低減することが可能であることを示唆しています。
 
3.2 ミツバチを救う日本の取り組み
2013年5月に欧州連合が、農薬によるミツバチへの危害回避を目的としてネオニコチノイド系農薬の使用の一部を暫定的に制限したことに機に、日本でも同様に、生態系の変化に伴う生物多様性喪失の指標の1つとして、ミツバチに対する農薬の毒性を取り上げています。

これに関連して、農林水産省は2013年から3年間、全国で実態調査を実施。

調査の結果、日本でも欧州同様にミツバチに対する農薬の毒性が認められ、原因物質は、稲作に於けるカメムシ対策のネオニコチノイド系農薬であることが判明しました。

調査結果を受けて、同省は、養蜂家と近隣農家との情報共有を促すと共に、養蜂家には農薬散布時に巣箱を撤去すること、農家は農薬の散布方法を工夫することを前提として、先月、2025年3月には、改正農薬取締法に則り再評価制度の導入案を公開。
 

4. 農薬取扱とパラダイムシフト
欧州グリーンディール(The European Green Deal)とは、2019年12月11日に発表された公正な商取引、かつ、人々の健康増進に寄与し、環境に配慮した包括的気候変動対策のロードマップであり、環境保全を主眼とした欧州連合 (EU)の 経済成長モデル。

EUは「2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにする」ことを行動目標とし、パラダイムシフトを達成することを目指しています。

他方「欧州連合の環境保全を主眼とした経済成長」へのパラダイムシフトは、2009年、リスボン条約発効やヨハン・ロックストーン博士が掲げた「地球の収容力の限界」警鐘に触発され、立法機関による法整備、市民レベルの意識改革と行動変容は、既に日々刷新されています。

欧州に於ける環境保全を中心とした経済成長へのパラダイムシフトの萌芽は既に始まっており、現在は開花期、早ければ、2030年以降は成熟期に突入していく様相を呈しています。

欧州連合は、議論が多く、実行・実現力に乏しいと市民から揶揄されることもありますが、科学者だけではなく、上述のように市民団体の意見を尊重し、議論の場を設けていることからも、変革へ対する真剣さ、ステークホルダーに対して、平等に耳を傾ける真摯な姿勢が伺えます。

では、実際に、農薬使用に対しては、どのような規制を設け、フェーズアウトを試みているのでしょうか。

ミツバチ保護勧告を例に、具体的に見ていきましょう。
 
4.1 EUの農薬フェーズアウト勧告
2009年、欧州連合は農薬が土壌・野生動物を始めとした生態系やヒトの健康にネガティブインパクトを与えていることが経年観察とデータによって判明したことで、蓄積されたデータを基に、持続可能な農薬取扱いに関する勧告Sustainable Use of Pesticides Directive (SUD)を発表。

一方、SUDは実際には効力をもたらさず、欧州加盟連合国の農薬販売量に変化は見られませんでした。

他方、2013年、EFSA( European Food Safety Authority:欧州食品安全当局)は、欧州委員会に対し、ミツバチの農薬に対するリスクアセスメントガイドラインを作成するよう要請。

緻密かつ多角的な細則の中で、フォローアップ注力項目として、以下の4点を挙げています。

・農薬散布された植物に飛来したミツバチの急性および慢性副症状

・低用量で長期間曝露された場合のリスクアセスメント

・累積および相乗的副作用を検出するための方法論

・果肉や花粉に曝露したミツバチを検出するための現行の検査プロトコールの評価および新プロトコール構築の必要性の検討

再三に亘る協議を経て、欧州グリーンディール中で、2030年までの期限付きで農薬使用量を現行の50%削減することを謳った農薬使用量削減の法的根拠であるSustainable Use Regulation (SUR) は、残念ながら、2024年2月に欧州委員会で棄却。

ステークホルダーの思惑が複層する中、一進一退の規制に対し、「ミツバチと養蜂家を救え」キャンペーン活動を行っている団体、その他、市民消費者団体は、科学者など専門家による論述を科学的根拠の盾とし、度重なる難航にも屈することなく、「食品産業界に於ける人と環境の健康を無視した商慣習を根絶する」ことを目的として、再度署名を集め行動を起こす準備を進めています。
 
4.2 日本:農薬被害リスクアセスメント
本国に於ける農薬被害によるミツバチのリスクアセスメントは、農薬としての登録および販売の可否を評価することを目的としています。

評価項目は、ミツバチへの毒性に関する事項であり、農薬への曝露経路別に成虫・幼虫および曝露量の推定値を換算するもの。

評価指数は、致死率50%と農薬の曝露が無い群との比較対象となる群に於ける自然死亡率の10%を基準としています。
 

5. まとめ
食のグローバル化に伴って、環境問題も健康課題も疾病構造も、世界は互いに近似あるいは均一な様相を呈し始めています。

品質評価は「世界基準」が求められている昨今、身体・民族・文化的特性を配慮しつつ、評価基準も国際協調路線を採択する傾向にあり、日本も然り。

日本は、主に欧米諸国で提起された先行事例に基づいて指標を作成しているため、周回遅れの課題提起となることが多いのではないでしょうか。

他方、欧州連合と日本を比較した際、明確に浮かび上がる違いは、欧州では、市民消費者団体が立法化を担う機関に直接意見を述べる機会が提供され、実際に、立法化に繋がるケースもある一方で、現在の日本では、市民団体が発言可能な場所も限られており「知らないうちに物事が進んでいる」ケースがあることです。

現在、欧米諸国が中心となり、世界の潮流から主流になりつつある有機農法、環境保全、生態系および生物多様性の維持など自然との調和、それによってもたらされる豊かな食材を食すことで健康維持も叶える医食同源の思想は、もともと東アジアが起源であり、欧米の著名な科学者や有機栽培農家にもポジティブなインパクトを与えてきました。

時代の変遷と共に、刷新すべき慣行があることも事実ではありますが、他方、誇るべき文化を守り、伝承することも、私たちの健康を維持し、取り戻すことが可能となる1つの手段であることを、国際比較を通して、新たな発見として眼前に見えてくるのではないでしょうか。
 
【参考URL/図書】
Health and Environment Alliance (HEAL)
https://www.env-health.org/

Save Bees and farmers
https://www.savebeesandfarmers.eu/

European Food Safety Authority (EFSA)
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/

「有機農業で変わる食と暮らし ヨーロッパの現場から」 
 香坂玲、石井圭一 著

農林水産省
https://www.maff.go.jp/

 

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