昨夏、水道水への基準値を上回るPFASが検出されたとの報道を受け、一躍話題となった化学物質PFAS(ピーファス)。
工業製品、日用品として多用されてきたPFASを含有する製品は、かつて、私たちの日常生活に利便性という“豊かさ”をもたらしました。
一方で、自然界や人体に及ぼすデメリットに関して科学的視点から検討が重ねられ、現在は、使用・製造禁止など規制の対象に。
実際に、PFASは私たちの生命や生活にどのような影響を及ぼすと考えられているのか、現時点での見解について見ていきましょう。
目次
1. PFASとは?
1.1 概要
1.2 何に使われている?日常生活に潜むPFAS
1.3 ストックホルム条約
2. PFASに対する規制とモニタリング
2.1 国内
2.2 国外~EUの見解を中心に~
3. IARCによる発がん性分類
3.1 何を意味する?分類の解釈法
3.2 PFOA
3.3 PFOS
4. PFASと健康リスク
4.1 PFASの体内動態
4.2 懸念されているリスク
5. まとめ
1. PFASとは?
1.1 概要
PFASとは、有機フッ素化合物の一種であるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称であり、1万種以上も存在すると言われています。
その中でも、過去に、生活用品や工業用品に広く活用されてきたPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)を中心として、国内外の専門家による排出量規制や生体(生態)への影響の検討が行われています。
それは何故でしょうか?
これらの化学物質は、耐久性・耐熱性・耐油性・化学構造的安定性などに優れ、廉価に製造が可能なため、工業および日用製品に広く応用されてきました。
一方、これらの性質は、視点を変えてみると、大気、河川、土壌などの自然環境、あるいは、動植物の体内に長く留まり、分解され難く、蓄積されるという特徴を持ち合わせているため、生体・生命へ対する脅威となり得ることが判明。
日本に於いても、PFOSは2010年以降、PFOAに関しては2021年以降、これらが含まれる製品の製造・輸入・使用は、法的根拠に基づき、原則として禁止されており、将来的には、PFOSを含有する製品は消滅すると予測されています。
1.2何に使われている?日常生活に潜むPFAS
PFOSは紙、繊維、金属等の撥水剤、防汚剤、表面処理剤、消火剤に用いられています。
もう一方のPFOAはフッ素ポリマー加工助剤や界面活性剤などとして用いられています。
1.3 ストックホルム条約
PFASに対する国内外の規制は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約:Persistent Organic Pollutants)の原則に沿って定められており、各国や共同体で排出量や定点モニタリングなどが実施されています。
ストックホルム条約は、1972年ストックホルムに於いて、国連史上初、環境問題に関する議論がなされた「国連人間環境会議」のストックホルム宣言を源流とし、1992年リオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」でリオ宣言として再確認、発展的な議論を重ね、2001年に条約として採択、2005年に発効されました。
当条約の締結国である日本に於いては、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」を法的根拠として、PFASの規制が行われています。
2. PFASに対する規制とモニタリング
2.1 国内
化学物質環境実態調査の名のもと、水質、底質、大気、生物中のPFOS、PFOA濃度測定を定点にて継続的に実施。経年的に濃度が減少していることが確認されています。水質の暫定目標値は、体重50kgの成人が毎日2L飲水しても健康障害を齎さない量として算出し、PFOS、PFOA合算値で50ng/L。
2.2 国外~EUの見解を中心に~
飲料水および食品に含まれるPFASの安全性に関する研究調査および評価を目的としてEC (European Commission : 欧州委員会)が招聘した諮問機関であるEFSA COMTAM Panel 欧州食品安全機関によって、食品中のPFASは、水道水、魚類、果物、卵および卵製品に最も多く含まれていたとの報告がなされています。現行では、飲料水や食品からの摂取上限値を体重kgあたり週に4.4ngと規定。
3. IARCによる発がん性分類
3.1何を意味する?分類の解釈法
WHOの外部組織であるIARC (International Agency for Research on Cancer)国際がん研究機構による発がん性分類は、発がん要因となる化学物質、微生物、作業環境などに関して、ヒトおよび動物に対する発がん性との因果関係の強さをグループ1、2A、2B、3の4つに分類・評価した指標。
グループ1が最も強い因果関係を示し、グループ3は因果関係を示す証拠が不足していることを意味しています。
身近な生活習慣では、タバコ、飲酒、加工肉、ディーゼルエンジンの排気ガスがグループ1の評価。
3.2 PFOA
ヒトにおける発がん性を示す有力な証拠を有し、ヒトに対する発がん性が確実であるグループ1に分類。
3.3 PFOS
動物実験に於いては発がん性を示す有力な証拠を有するものの、ヒトに於ける発がん性を示す証拠がほとんどなく、ヒトに対する発がん性の可能性があるグループ2Bに分類。
4. PFASと健康リスク
4.1 PFASの体内動態
消化管からゆっくり吸収され、ゆっくりと長い期間をかけて排出されると考えられており、体内でPFAS濃度が半分量まで低減する半減期は、PFOSで約3~7年、PFOAで約2~8年と言われています。
動物実験に於いては、代謝・解毒を司る肝臓で肝臓毒性が多くみられたとの米国での研究結果が示されました。
ヒトに於いても、血清中総コレステロール値(主にLDL-C)や血清肝臓酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)と言った肝機能に関連する血液検査項目での上昇が示唆されていますが、PFASとの関連性は明らかにされていません。
4.2 懸念されているリスク
他の健康障害と同様、成人と比較し、同量のPFAS含有飲食品を摂取した場合、乳幼児および高齢者、慢性疾患を有する方々で健康被害が生じる可能性が高いと指摘されています。
また、がんへの罹患だけではなく、免疫機能の低下、ワクチン接種後の効果を減弱させるとの報告もある一方で、明確な回答が得られるまでには至っておらず、各国研究機関で総力を挙げて解明に取り組んでいる段階です。
5. まとめ
現在、PFOAに於いて、発がん性を有していることは確実であることが確認された一方で、発症率や重症度、また、これらを阻止するための安全域は調査段階中であり、国際的な合意点も見出せていないのが現状です。
この様な状況下に於いて、環境省や各都道府県では、水質や土壌などの定期的な調査を行っており、水道局とも安全な品質を担保するため連携を図っています。
確かな情報源からの情報発信をキャッチしながら、不必要に不安を煽る商品などに惑わされないようにしたいものです。
最後に、1972年の国連人間環境会議で当時の環境大臣大石氏が日本代表として環境保全の重要性を述べた言葉を抜粋し、以下に記します。
「日本人は自然を愛し、自然とともに生きてきた国民である。しかし、戦後の重化学工業を中心とした高度成長により自然を破壊し、過去に、公害による悲惨な犠牲者を齎した苦い経験を有している。広く国民から、“誰のための、何のための経済成長か”との疑問が投げかけられた。我々は、公害のない日本を目指し努める」
【参考資料】
「PFOS、PFOAに関するQ&A集 2023年7月時点」
環境省 PFASに対する総合戦略検討専門家会議
「PFOA(パーフルオロオクタン酸)及びPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)に対する国際がん研究機関(IARC)の評価結果に関するQ&A」
内閣府 食品安全委員会
「EFSA Journal 2020 - Risk to human health related to the presence of perfluoroalkyl substances in food」
EFSA Panel on Contaminants in the Food Chain
(EFSA CONTAM Panel)
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