細菌感染症の1つである梅毒は、ペニシリンの開発・普及に伴い、戦後、発生件数は激減。
「過去の病気」という印象が強い疾患でしたが、国内では、2011年頃より再燃し、新型コロナウィルス感染症の感染拡大とシンクロするかのように時を同じくして、静かな脚光を浴びるようになってきました。
性感染症の1つでもある梅毒は、社会的・身体的背景から、特に若年層の女性に感染兆候が多く見られます。
この兆候は、国内だけではなく、米国でも同様に発生している世界的な潮流。
妊娠期とも重なる時期に発症する確率が高く、母子感染も懸念される梅毒。一方で、予防や早期発見も可能な疾患でもあります。
梅毒を含む性感染症の概要を知り、予防や早期発見のための方法を見ていきましょう。
目次
1. STI/STD 性感染症とは?
2. 梅毒とは?
3. 世界的潮流
4. 予防と治療
5. まとめ
1. STI/STD 性感染症とは?
性感染症とは、性交渉を機会に細菌やウィルスの病原体を介して生殖器または口腔に感染する症候および病気全般を指す名称。
英語では、性感染の状態をSTI(sexually transmitted infection)、性感染の結果発症した病気をSTD(sexually transmitted disease)と一般的に略称が用いられています。
主な性感染症として、尖圭コンジローマ、クラミジア、梅毒、性器ヘルペス症、淋菌感染症、HIV/AIDS、B型肝炎などが挙げられます。
多くの性感染症に於いて、罹患者数は10代後半から20代前半で高くなっています。
その中でも、クラミジア感染症は世界中で最も患者数の多い性感染症。自覚症状としては、帯下(おりもの)の増加や下腹部痛、性交痛がわずかに見られるものの、無症状で経過することが多いため、見逃し・感染拡大が発生しやすく、男女ともに不妊の原因ともなる疾患です。
妊婦健康診査では、母体および胎児への影響を最小限に留めるよう早期発見を目的として血液検査を実施し、性感染症罹患の有無に関しても検討されます。
HPVワクチンである4価ガーダシル、9価シルガード(共にMSD株式会社)では、子宮頸がん予防効果だけではなく、同様に、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染により発症する尖圭コンジローマも適応範囲。
2. 梅毒とは?
梅毒は、スピロヘータの一種であるトレポネーマ・パリドムによる細菌性の感染症であり、梅毒罹患者とのトイレや入浴の共同利用、ドアノブやつり革への接触、衣類の共有など、日常的な生活行動範囲内では感染せず、性交渉により感染します。
感染症法では、第5類感染症に分類されており、診断した医師により7日以内に全数を最寄りの保健所に届出る必要がある疾患。
女性の感染者は、妊娠を伴う症例件数として、15歳から44歳までの対象者中、20代前半が40%を占めており顕著。
罹患者本人は、無症状で経過することも多く、初期段階では、性器や口腔内などに無痛性の硬結が見られ、症状の進行と共に、性器や口腔内に加えて、四肢や背部に無痛性の発赤・紅斑・丘疹などを呈します。
必発ではありませんが、咽頭痛や筋肉痛、倦怠感、発熱を伴うケースもあります。
梅毒を長期間に亘り放置した結果として、激しい頭痛やめまい、難聴、筋力および認知機能の低下といった症状を呈し、大動脈瘤などの心疾患に罹患、または致死的ケースに発展する場合もありますが、抗菌薬が著効する疾患であり、これらの件数は多くはありません。
胎盤を経由した母子感染で先天性梅毒に罹患した乳幼児では、主に、発疹などの皮膚症状、肝脾腫、難聴などの症状を呈します。
現在、梅毒に対するワクチンの開発も進行中。
3. 世界的潮流
妊娠を伴う梅毒罹患者数の増加は、国内に限ったことではありません。
米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention : 米国疾病予防管理センター)は、1994年以降の先天性梅毒罹患者数の調査結果に於いて、2010年には846件であった件数が2019年には1870件と倍増、過去最高値を示し、更に、2020年には2022件と増加傾向を更新した(2021年7月29日現在)と発表しました。
同機関は、2000年の時点で、1941年以降の梅毒罹患者数調査の結果、1990年から2000年の期間でピーク時より約90%削減することに成功したと根絶間近の吉報を報じた一方で、2015年から2019年の期間で、梅毒だけではなく、クラミジアや淋病といった性感染症が30%近くも増加したと、近年、残念な結果を報告しています。
国内に於いては、第二次世界大戦後に梅毒罹患者数は激減。
一方で、2011年頃から増加傾向を示し、新型コロナウィルスが発生・発症拡大し始めた2019年から2020年には減少傾向を示したものの、2021年から再燃し始めていると国立感染症研究所感染症疫学センターは発表しています。(2022年1月14日現在)
4. 予防と治療
全てのひとに有効な予防策は性交渉時にコンドームを用いて、物理的に病原体の侵入を回避することです。
また、不特定多数のパートナーと性交渉は行わないこと。
併せて、性器だけではなく、口腔内感染も見られるため、オーラルセックスは行わないことが基本的な予防策の1つ。
治療には、ベンジルペニシリンカリウムなどペニシリン系の抗菌薬が用いられ著効します。
5. まとめ
全体的に見ると増加傾向にある梅毒および母子感染による先天性梅毒ではありますが、件数としては爆発的な数値ではありません。
性感染症全般に対する予防策を試みることで多くは回避可能です。
新型コロナウィルスやインフルエンザなど性感染症以外の感染症に於いても、感染源や感染ルートなど、「なぜ起こっているか?」を冷静に検討し、適正な健康情報を取得すること。
加えて、医療機関や厚生労働省など正しい情報源から取得した推奨対応策を実践することが罹患や重症化を回避する手立てとなります。
社会的交流を生活の基盤とする私たちにとって、感染症とは、誰の身にも平等に発症し得る疾患。
感染症発生時のスティグマ(社会的偏見)を一人一人が自制することは、罹患者の心理的負担を軽減し、早期発見・治療に繋がる良策となり、感染拡大抑止の大きな力となることでしょう。
【参考URL】
NIID 国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/
THE LANCET Microbe Vol 3 March 2022
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https://www.thelancet.com/journals/lanmic/home
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