慌ただしい朝を乗り切り、午前のタスクを無事に終え、ランチでお腹も満たされ気分は上々。「午後からもがんばろう!」という意気込みでデスクに戻り、デスクワーク再開。
そんな意気込みとは裏腹に、1時間程経過した辺りから、キーボードを打つ手に熱感を覚え始める。入力速度は徐々に低下し、スクリーンを見つめる視点も定まり難くなり始めた。意識的に瞬きを繰り返し、何とか状況を打破しようと試みても睡魔に負けそうになる…。
長時間にわたるデスクワークや家事がホッとひと段落した時に襲ってくる眠気。パフォーマンスの低下にも繋がる…。
「短時間でも仮眠を取ったほうが良いのかな?」「仮眠を取るスペースもない。上司の目も気になる…」「睡魔に負けたくない…」「しっかり寝たはずなのに」
穏やかな午後。心の中で繰り広げられるせめぎ合い。このような事態、どのように乗り切ることができるのでしょうか?
海外出張が多く時差ボケに悩まされている方にもおすすめの内容です。
目次
1. 昼寝の可否
1.1 眠気のサイクル
1.2 昼寝は善か悪か?
1.3 パフォーマンスを上げる昼寝の目安
2. カフェイン飲料コーヒーの可否
2.1
カフェインとは?
2.2 カフェインの体内動態
2.3 コーヒーが目覚めの1杯である理由
3. 眠気と香りが伝わる経路
4. パフォーマンス向上に役立つ1杯のコーヒー
5. まとめ
1. 昼寝の可否
乳児期はほぼ終日微睡の中にあり、幼児期までは午睡の習慣があったものの、成長と共に「お昼寝」は習慣の中から除外されていきます。
一方で、通勤途中でウトウト。昼食後にもウトウト。会議中にもウトウト。
眠気は、望まずも常に発生しているように感じられます。睡魔のピークは14時頃。
仕事のパフォーマンスにも影響を与えかねない眠気。おとなになった今、お昼寝を取り入れることはカラダにとって良いことなのでしょうか?
1.1 眠気のサイクル
長短の個人差は少なからず生ずるものの、平均的な睡眠時間は約8時間。
睡眠中に発生する深い眠りのノンレム睡眠と覚醒状態に近づく微睡のレム睡眠が交互に出現する睡眠リズムは凡そ90分間隔。
起床後、午前中いっぱいは90分周期でレム睡眠の余波が持続し、午後からは、90分から120分周期のウルトラディアンリズムの支配下にあると言われ、集中力の低下や午睡欲が高まります。
「朝5時起床で夜23時に就寝した場合13時から14時くらいに眠気は発生しやすい」という現象が示すように、起床時間と就寝時間の中央値で午睡欲は高まるとの調査結果も。
昼食後は食後血糖値の上昇も加わり、やはり、14時くらいに眠気はピークへ。
座位で行う単調なデスクワークなど、インアクティブな状態で眠気は更に促進されます。
1.2 昼寝は善か悪か?
昨今では、スペインを始めとした南欧諸国の昼休憩「シエスタ」の習慣も広く紹介され、午睡はポジティブなライフスタイルの1つとして市民権を得ているかのようにも感じられます。
一方で、生活リズムに変調をきたし、将来的な認知症のリスクや抑うつ傾向を高めるとの指摘も。
平日のタスク管理という観点からだけではなく、休日も含め、眠気に任せるままに、心置きなくお昼寝をすることはカラダにとって本当に良いことなのでしょうか?
善悪二元論の結論は「年齢に応じて適した昼寝の長さがあり、その長さにより善悪の判断は分かれる」です。
1.3 パフォーマンスを上げる昼寝の目安
睡眠効果によるヘルスアウトプットは、7時間から8時間の睡眠時間を有する人が最も良好と言われています。
ご高齢の方々は、睡眠時のレム睡眠が著しく減少し、トータルの睡眠時間も漸減傾向へ。それをカバーするかのように、午睡習慣を持つ方が増加。凡そ55歳を境に、必要とする睡眠時間自体の個人差も大きくなります。
一方で、やはり大切なのは生活リズム。体調不良時以外は、お昼寝の長さを調節し、夜間ぐっすり眠れる環境を整える必要があります。
昼間のパフォーマンスを上げるためのお昼寝時間の目安は、65歳未満では10分以上15分以内。65歳以上では30分以内。
常時、1時間以上の午睡習慣がある場合、ヘルスアウトカムは低下します。
2. カフェイン飲料コーヒーの可否
パフォーマンス向上に役立つお昼寝の長さは最大15分。
「15分後に起きなくては…」というプレッシャー下で仮眠も取れず無為に時間だけが経過し、時間の経過と共に眠気は再襲来。
爽快感を伴ったスッキリとした目覚めをもたらす「目覚めの1杯」の異名を持つコーヒーや緑茶などカフェイン含有飲料を仮眠時に上手く用いることはできないのでしょうか?
2.1 カフェインとは?
眠気覚ましのコーヒーとして覚醒作用は広く知られています。その作用をもたらす主成分がカフェイン。
カフェインは、メチルキサンチン類に分類されている化合物で、コーヒーの代名詞のように捉えられていますが、実際には、コーヒー以外にもカフェインを含有し、飲料として用いられている植物が複数存在します。
その中でも、コーヒーと双璧をなす伝統的なカフェイン含有飲料、それは、お茶(緑茶・紅茶・ウーロン茶)です。
2.2 カフェインの体内動態
カフェインの成分は、一部は胃部、大半は小腸で吸収されます。
ホットコーヒーでは30分から1時間程度、アイスコーヒーでも1時間から2時間程度で、カフェインの血中濃度は最高値に到達。
血中へ取り込まれたカフェインは速やかに全身を駆け巡ります。
取り込まれた成分は平均3.5時間程度で半減し、飲用してから20時間以内にそのほとんどがカラダの外へ排出されます。
一方で、代謝に要する時間には男女差があり、また、妊娠中は体内へ留まる時間が延長するという特徴も有しています。
2.3 コーヒーが目覚めの1杯である理由
コーヒーの主成分であるカフェインは水溶性であり、ドリップで容易に成分が抽出されます。
当該成分は、神経の興奮を抑制し、眠りへ誘うアデノシン受容体が睡眠物質と結合する働きを阻止する役割も担っています。
お茶やココアなどカフェインを含有する飲料は他にもありますが、抽出方法や抽出時間、カフェイン含有量などを総合的に考慮すると、やはり、ブラックのドリップコーヒーを飲用することが最も効率的に味わい深く目覚まし効果を得る手段。
砂糖やミルクを加えることで代謝過程に時間を要するため効果発現までの所要時間は遅延傾向へ。
適量では爽快な目覚まし効果が得られ、心に安らぎがもたらされる一方で、ドリップコーヒーを一日で5杯以上飲用するなど高濃度にカフェインを摂取することで、脳神経は過活動状態となり、逆に不安感を招く結果に。
ポジティブな効果を獲得するには、1日最大2杯、嗜む程度が良いのかもしれません。
3. 眠気と香りが伝わる経路
眠気や睡眠のサイクルは、脳によって調節されているという原理に異論を唱えるひとはいないはず。では、具体的に脳のどの部位で睡眠と覚醒のリズムは調整されているのでしょうか?
それは、脳の内奥に鎮座する司令塔・視床下部です。
視床下部前部で睡眠、後部では覚醒を担うといった作業分担が行われています。
「コーヒーの香りを嗅ぐと何だかホッとする」
休憩時間に頂くコーヒーの香りに癒された経験を持つひとは多いはず。芳香は眠気覚ましの効果も有しているのでしょうか?
香りが伝わる経路は複数存在します。その中の1つに、睡眠サイクルと同様、視床下部を介す経路も。
視床下部を経由したコーヒーの芳香は、自律神経に働きかけ、程よい刺激と共に安らぎをもたらしてくれるのかもしれません。
同じ司令官を持つ睡眠覚醒作用と芳香による抗不安作用が相乗効果を成し、心地の良い爽快な目覚めへと誘ってくれるのではないでしょうか。
4. パフォーマンス向上に役立つ1杯のコーヒー
コーヒーの覚醒作用が発現するのは、飲用後、約20分から30分を経過した時。その後、約3時間に亘って効果は持続します。
レム睡眠の余波が続く午前中と午睡欲がピークを迎える午後14時頃。
就業前、デスクに就いた時に1杯。午後、眠気を催し始めた時や午睡欲がピークを迎える30分前頃に1杯嗜むことで、過度の緊張も抑えながら仕事に取り組むことができるはず。
コーヒーが苦手な場合は、濃い目の緑茶(一番煎)でも同様の効果が得られます。
夕方18時以降にコーヒーを始めとしたカフェイン濃度の高い飲料を摂取することで、睡眠の質に影響を与え、翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。
アクティブな仕事環境下や、休日には、香りと風味を楽しみながら適量範囲で召し上がるのが良いのではないでしょうか。
5. まとめ
飲む量や時間帯によって、天使にも悪魔にも変化するカフェイン飲料のコーヒー。
採光と遮光の調節と共に、コーヒーを始めとしたカフェイン飲料を上手く用いれば、睡眠圧を抑制し生活リズムを整え、時差ボケを早期に解消するための手立てにも。
その吸収速度や吸収率など代謝過程を考慮すると、妊娠・授乳期など周産期には避けるのがベターなど、女性や子どもにとって留意すべき点はあるものの、その香しい香りはモチベーションの維持と向上に役立つ絶好のパートナーともなります。
度が過ぎれば毒となる成分と上手にお付き合いしたいものです。
【参考文献】
「睡眠学 第2版」朝倉書店
日本睡眠学会 編集
「カフェインの科学」栗原久 著
学会出版センター
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