香りの文化と言えば、香水、アロマセラピーなど欧米諸国、特に、フランスが芳香文化先進国として有名です。一方で、私たちが暮らす日本には、平安時代以前のいにしえより、香りを愛でる文化がありました。
それは、茶道、華道と共に、日本三大芸道として名高い「香道」です。
茶道や華道に比べてマイナー感が否めない香道。「初めて聞いた」という方もいらっしゃるかもしれません。
でも、実は、この伝統文化の作法の中に、カラダのメカニズムに応じた優れた瞑想(メディテーション)効果が隠されているのです。
それでは早速、香道の概要とメディテーション効果を見ていきましょう!
目次
1.1 歴史
1.2 流派
2. 香りの源・香木について
2.1 香木とは?
2.2 香りの分類
3. 香道はスリリングな遊び!?
4. 香道はメディテーション効果抜群!?
5. まとめ
1. 香道の歴史と流派
1.1 歴史
『日本書紀』によると、香道で使用される芳香原料の香木が淡路島に漂着したのは595年。
香木を発見した島民は「ただの薪」と思い込み、かまどにポンとくべたその瞬間、周囲に立ち込めた芳香に驚愕し、香木を朝廷へ献上したと言われています。
奈良時代には、仏教儀式に用いられていた香木。 その後、奈良時代後期から平安時代にかけて、仏教とは一線を画し、純粋に香りを楽しむアイテムとして香木を用いるようになりました。
これ以降、香道文化は花開いていきます。
平安時代に公家のお遊びとして発展した香道。世界に名立たる古典文学『源氏物語』の中にも、「香」の記述が多く見られます。
現在、伝統芸道として受け継がれている「香道」は、室町時代の東山文化の中で確立されました。世は戦乱の渦中にあり、その政治手腕を批判されることが多い一方で高い教養を有する室町幕府8代将軍・足利義政の治世下で花開いた東山文化。
煌びやかな貴族文化と相まって、静寂な簡素美を愛しむ武家文化に代表されるわび・さびの哲学(思想)と芸術の黎明期。
戦乱の最中でも、人々の心が求めていたのは、ひと時の癒しだったのかもしれません。
時代と香道がマッチングした瞬間です。
1.2 流派
香道にも茶道や華道と同様に、流派が存在します。
香道2大流派は、優雅な宮廷の流れをくむ御家流と凛とした武士作法の流れをくむ志野流。始祖はいずれの流派も博識の学者である三條西実隆堯空。実隆に教えを請うた志野宗信が志野流の始祖です。
2. 香りの源・香木について
2.1 香木とは?
ジンチョウゲ科に属する香木。白檀系・沈水香木(沈香)系・黄熟香系の3系統に分類されます。香道に用いられる主要な香木は、東南アジアの特定の地域に分布する沈香。
沈香は、木肌に外傷を負った結果、その傷口に菌が寄生することによって形成された樹脂が沈着した木片。創傷のない沈香樹から芳香は発せず、この傷ついた沈香を熱した時にのみ芳香を漂わせます。
2.2 香りの分類
香道で用いられる香木は、「六国五味」という、香木が持つ香りの特徴を、東南アジアにある6つの産出地(木所)を示す名称と、甘・苦・辛・酸・醎(塩辛い)の5つの味覚に例えた分類によって表現されます。
3. 香道はスリリングな遊び!?
香道は、聞香炉(ききごうろ)という陶器の中に温かく熱した炭団と灰をくべ、その天辺に芳香のある木片を乗せて、立ち上るほのかな薫香を楽しむ遊びです。
茶道と同様の所作で、聞香炉を両掌で支え安定させた後、聞香炉上端部と鼻腔を包み込むような形で右手を添え、香りの通り道を作り、各々左右の鼻腔から最大3回まで香りを聞きます。
組香は、複数人の参加者が集まり、2種類以上の香りを聞き、木所を当てるゲーム・競争性と、題目と採点に文学的表現を用いた、感性と頭脳が鍛えられる香道の遊び方の1つです。遊びとは言っても、最終評価もあるため、程よい緊張感もあります。
最も有名な組香は「源氏香」。52通りから成る香りの組合せの中から、5つの正しい回答を導き出します。嗅覚、そして、短期記憶力と集中力が試されるスリリングなひと時。
香道は、立ち昇る薫香に一心にココロを傾け、整え、香りを楽しむ、個人的な修練や嗜みである一方、組香のように、複数人で鍛錬し合い楽しむこともで可能です。組香の最終評価発表では、最高得点者へ参加者から称賛の拍手と文学的素養豊かな結果記録紙を贈呈。組香は、現代のビジネスシーンでもチームビルディングに有効かもしれませんね。
4. 香道はメディテーション効果抜群!?
空気中に漂う香りの分子は、鼻腔を通り抜け、鼻の奥にある嗅上皮の粘膜層に溶け込みます。嗅上皮には、びっしりと嗅細胞が並び、粘膜層に溶け込んだ香り分子をキャッチ。香り分子に刺激された嗅細胞の受容体は電気信号を発し、嗅神経へ情報を伝達します。
嗅神経を介した芳香等においの情報は、脳の中枢部である大脳辺縁系にダイレクトに到達。
大脳辺縁系は、記憶や快・不快などの感情に働きかける部位であり、呼吸や心拍数など意識的に調整ができない不随意運動も司ります。
大脳辺縁系に届いた芳香は、瞬時に、内分泌系(ホルモン)と神経系の司令塔でありバランサーでもある視床下部にも情報を伝達。
感情にも働きかけるにおいは、芳香であれ、悪臭であれ、カラダとココロにインパクトを与えます。
芳香で高まるリラクゼーション効果。
では、なぜ香道は、加えて、メディテーション効果も高いと言えるのでしょうか?
その答えは、香道では、香りを嗅ぐではなく、「香りを聞く=聞香(もんこう)」と表現している点にヒントが隠されています。
香道は、微かに聞こえる小さな音に耳を傾けるように、ほのかに立ち上る薫香に一心集中する芸道。この、一心に集中する「手放す=無の境地=ZEN」行為が、メディテーション効果を高める所以です。更には、ココロの雑念を払い、まっすぐに木所を探ることも目的とするため、集中力も一層高まります。
集中と癒しが絶妙なバランスで調和されたアート。それが、日本伝統文化の香道です。
5. まとめ
芳香文化先進国として名高いフランス。主な芳香文化の担い手は、香水とアロマセラピーです。
ルイ14世治世下のフランスでは、宮廷人の嗜みの一環で、体臭や居住空間・革製品の消臭を目的として、高級な香水がふんだんに用いられました。
フランス式のメディカルアロマセラピーは、医療者による創傷の治療や空間清浄を目的として用いられたのが始まりです。
このように、かつてのフランスに於ける「香り」や「精油」の用い方は、消臭や治療といった、顕在化している課題に対する利用目的が明確です。
一方の日本では、室町・戦国時代の武士は、戦の合間に「香」を用いて精神性を高め、戦に備えたていたと言われています。
言わば、まだ顕在化していない課題に対して、「ココロの持ちようが行動を促し結果を作る」ことを意識し、「香り」のメディテーション効果を取り入れた未来志向の活用方法。同時に、戦で疲弊したココロの回復を願い、リラクゼーションとしての効果も期待し活用していたのかもしれません。
いずれ劣らず、共に重要な課題解決方法。
「芳香」は、様々なシーンに応じてフレキシブルに活用できる!
現代に置き換えると、居住空間の環境作りや掃除などの家事に、仕事や勉強の合間にも「香」を上手く活用できれば、ストレスも軽減しながら、同時に、マルチタスクを達成できるスマートなサポート手段になるのではないでしょうか?